2020/09/25

くすりと付き合う

 皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

 11月14日に『秋田心の健康公開講座』で「精神科の薬」について話をすることになりました。その際には、『~10の心得~』(ちょっと偉そうな言い方ですいません)というものを基に、薬の説明をしたいと考えています。

 以下はその「レジュメ」です。関心を持たれた方は、是非、公開講座(詳細は下記)にもご参加下さい。

 <心得①>薬を必要以上に怖がらない:薬を怖がり過ぎると、効果を充分に引き出せません。精神科の薬というと怖いイメージがあるのか、(他科の先生が)似たような薬をちょっとずつ処方しているのを見かけます。例えば、少量の抗うつ薬が3種類も4種類も出ていたり・・・。抗うつ薬は、大きな副作用が起きていなければ、一つの薬を充分量増やして投与するのが一般的。複数の薬が出ていると、どれが効いていて、どれが副作用を起こしているのか分かりません。

 別なケースとしては、患者さんが抗精神病薬を怖がり過ぎて、充分量投与できないこともあります。その結果、症状が抑えきれず、患者さんもつらいし、こちらももどかしくなります。

 薬は“必要”最小限。まずはそれを押さえるべきと心得ます。

 <心得②>「効果」のことばかり考えない:医者はクールにしていても、本来は「治したくてしょうがない人たち」です。だから、症状を聞くと、すぐ薬を出したくなります。しかし、薬に副作用はつきもの。それ故、治すこと(効果)ばかり考えるのではなく、副作用を常に気にしておく必要があります。その点、スポーツやゲームと似ています。攻撃も大事ですが、守備も重要というわけです。

 <心得③>薬を飲み過ぎない:高齢化と医療の専門化に伴って、複数の科から薬をもらっている人が増えています。合わせると、10種類を超えている人も珍しくありません。こういった「多剤処方」の問題は、社会が取り組む大きな課題だと考えます。

 <心得④>生活を守る:外来で患者さんと関わる際、精神科医が一番考えていることは、「患者さんの生活が壊れないようにしていく」ということです。病理や症状を把握するのも大事ですが、「生活を守る」という発想が一番重要。薬物の選択もそういった考えを基に行われるべきです。

 <心得⑤>精神疾患だけが病気ではない:これも当たり前のことですが、結構、忘れられがちです。外来では太っている患者さんをよく見かけます。精神疾患を持った人は生活習慣病になりやすいのです。だから精神科とはいえ、体のことも話題にすべき。また、患者さんの方も、精神科とは別に、身体を診てくれる「かかりつけ医」を見つけておくべきでしょう。

 <心得⑥>薬物療法以前に重要なことがある:まずは、生活を整えること。飲酒をしていれば、薬が効かなかったり、逆に効きすぎてしまうことがあります。体を動かさなければ、睡眠薬を飲んでも良質な睡眠はとれません。生活リズムの乱れも、薬だけで整えるのは不可能です。抗うつ薬を飲んだからといって、体調不良からくる不快な気分は改善しません。喫煙をすれば血中濃度が大幅に下がる薬も存在します(オランザピンであれば半分程度に下がります)。だから、薬に頼る前に今一度、現在の生活を見直すことが大切です。

 <心得⑦>治療は薬物療法だけではない:精神科医は、一日に何十人も患者さんをみます。だから関わり方が、「薬を変えておしまい」といったことになりがちです。しかし、薬物療法より、カウンセリングが向いている人もいますし、デイケアや訪問看護を利用することで、安定する人もたくさんいます。それ故、常に、「治療のコンビネーション」を考えておくべきです。

 <心得⑧>薬に詳しくても診たてが間違っていたら意味がない:うつ状態といっても単極性なのか、双極性なのかによって薬が変わってきます。認知症といっても、前頭側頭型の人がドネペジル(抗認知症薬)を服用すれば、症状が悪化しかねません。だから、薬と同時に病気についても知っておく必要があります。

 <心得⑨>脳を守る:「脳を守る!」という言葉は、先輩から聞いた言葉です。その時、「この人はそういう発想で薬を出しているのか」と感銘しました。確かに、そういう意識で薬を処方していれば、おのずと量は「必要最小限」になりそうです。

 <心得⑩>病気イコール人生ではない:これが最後にお伝えしたいことです。今回のように、精神科の勉強をしていると、なんだか病気イコール人生のような気になってきます。しかし、そんなことはありません。あくまで病気はその人の一部です。患者さんには、是非、病気とは関係のないところで、和やかな時間を過ごし、人生を楽しんで頂きたいと願っています。

令和2年9月25日
院長 松本康宏

『秋田心の健康公開講座』(秋田県心の健康福祉会主催):11月14日(土)13:30~16:30 社会福祉会館9F