2020/05/22

塩狩峠

 週末の寮は、たいてい暇なもの。35年前、岡山で寮生活を始めた私は、日曜日を退屈に過ごしていました。そんな時、友人が「これ良かったよ」と言って渡してくれたのが『塩狩峠』です。

 先日、TSUTAYAでプラプラしていると、この本が目に留まりました。何だか懐かしくなって購入した次第です。

 この本の作者は三浦綾子さん。北海道旭川の方です。彼女の作品としては、『氷点』の方が有名。『氷点』は何回かドラマ化されているため、ストーリーを覚えている方も多いかと思われます。『氷点』も『塩狩峠』も北海道が舞台。ちなみに「塩狩峠」は旭川の北、30㎞あたりにあるそうです。

 若い頃感動した本を、今読んで何とも思わなければ、感性が錆びついていることになります。そんな心配をしながら読み進めたところ、最後はやはり気持ちを大きく揺さぶられました。今もって皆さんにお勧めしたい良本です。

*****
 最近、自宅にいる時間が長いため、本を何十ページか読んでは昔のことを思い出し、また読んでは昔のことを懐古する、そんな過ごし方をしています。まあ、「回想療法」のようなものです。

*****
 30年以上も前のこと、修学旅行で北海道に出かけました。当時の北海道は心理的に今よりも遠く、また、私が抱くイメージは、『氷点』や『塩狩峠』に負うところが大きかったように思います。

 新幹線で東京まで出て、山手線で上野に行き、夜行列車で青森へ。その途中、窓から『仙台』と書かれた看板が見えました。思わず「ここが仙台か・・・」と呟いたのを覚えています。青森に着いてから、連絡橋を渡り、青函連絡船に乗って函館へ。函館駅には水槽があり、中にいるカニを見て、「北海道に来た」という実感が湧いてきました。そんなたわいもないことを覚えているのが不思議でなりません。

 修学旅行自体は、いつも寝食を共にしているメンバーなので、それほど感慨はなかったというのが本当のところ。ただ、それはそれで懐かしい思い出です。

*****
 6月1日は、当院の開院記念日です。今年89周年を迎えます。つまり来年、90周年。その頃、コロナが収まっていれば、式典を行いたいと考えています。仮に式典ができなくても記念誌は作ります。

 若い頃は、「儀式(式典)なんて意味があるのかな」と思っていました。しかし、年を取るとともに、その考えは変わってきています。

 それにしても「儀式」って何の意味があるのでしょう。すぐ思いつくのは、それをすることでエネルギーの方向付けができること。例えば、勉強する前にハチマキをするとか(今どきそんな人いませんか)。次に所属感を得られること。例えば、自分は日本人だとか、ある集団に属しているとか。それから、周囲に感謝を伝える機会。そういったことが思いつきます(精神科医ってこういうことを考えるのが好きですね)。

*****
 話を元に戻します。

 当院は職員が比較的長く勤めてくれる病院です。それでも10年前一緒に働いていたメンバーを思い返すと、かなりの人がいなくなっていることに気付きます。

 修学旅行や高校時代をやり直すことができないのと同じく、10年、20年たって、もう一度、昔のメンバーで仕事をしようと思っても、それは無理な話です。

 だから改めて、「今を大事にしたい」と考えています。

令和2年5月22日
院長 松本康宏