2020/02/04

家族

 二月になりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 昨年より、依存症の治療に力を入れています。幸い、参加者も増えてきました。関心を持たれた方は、医療相談室にお問い合わせ下さい。

 酒害の説明だけでは埒が明かないのがアルコール依存症です。昔から精神科と縁のある病気ですが、なかなか治療成果をあげることができず、精神科の「鬼門」として扱われてきました。

 かつてこの領域でトップを走っていたのが斉藤学さんや信田さよ子さんです。「共依存」の概念を広めたのも彼や彼女。共依存は画期的な概念でした。当人を変えようとするよりも、依存を手助けしている家族(多くは妻)の関わり方を変える方が有効と考えたわけです。

 その後、世間で、共依存・イネイブラー(依存を手助けする者)・アダルトチルドレン・機能不全家族といった用語が知れ渡りました。私も興味を持って、そういった本を読んでいました。

 そのうち、妻をイネイブラーとして問題視するのはおかしいという意見が出てきます。これは当然です。家族が依存症になれば、なんとか助けたいと思うのは当たり前。夫が作った借金を工面したり、子どものことを考えて離婚せずにいる妻を、一概に責めることはできません。

 では、依存症者の妻はどういった生き方をすれば良いのか ― その問いに答えるために用いられたのが「フェミニズム」です。しかし、ラジカルなフェミニストは、家族関係を<支配・被支配>として捉えます。私にはその考えが治療に役立つような気がしませんでした。そういったことで、いつのまにか、その手の本や論文を読まなくなりました。それから15年。依存症の治療も変わりました。

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 先日、映画『おかえり寅さん』を観てきました。山田監督はすごい思想家です。彼自身は「自由を描きたいのであって、思想的なものは作りたくない」と述べています。ただ、それが一つの思想ともいえます。

 では監督の思想にはどのような特徴があるのでしょう。

 私が思うにその一つは「実践的」ということ。『男はつらいよ』には、人間に共通する倫理観や生き方を示すセリフがよく出てきます。また、そういったセリフを述べるのは、実のところ寅さんより、博(ひろし:寅さんの妹さくらの夫)の方が多いように思えます。

 例えば、博とさくらが暮らす住宅での一シーン。さくらがふいに「お兄ちゃん今頃何しているかしら」と漏らします。そこから会話が始まり、博は最後にこう述べます・・・「人生に大事なことは、誠実に生きるってことじゃないかなぁ」。

 先月、院長あいさつで『ねずみの嫁入り』の話をしました。そこでは<誠実に生きている人が一番>ということを書きました。実はこれも上の発言がベースになっています。つまり私は山田監督の思想に影響を受けているわけです。

 もう一つ特徴をあげるとすれば「多様性」でしょう。寅さんと妹のさくらは異母兄弟。『とらや』を営んでいるのは寅さんの親ではなく、おじさん・おばさん。さくらの夫、博もしょっちゅう『とらや』にいます。他にも、準家族のような隣の社長。そして博とさくらの子ども。このように寅さんの「家族」は多彩です。他にも色んな人が出てきますが、監督は全ての人をあたたかく肯定的に映しています。

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 子どもが外の世界と積極的に関わるには、「心の安全基地」が必要とされています。不安になった時や自信を失った時、あるいは外であったことを報告したい時に、無条件に受け入れてくれる場所、それが「心の安全基地」です。寅さんは旅先でマドンナに出会うと、どういうわけか柴又に帰省します。子どもの戦勝報告みたいにも見えますが、大人になってもこういった「心の安全基地」がある人は幸せだと思います。

 『寅さん』を観ても依存症の本や論文は書けません。しかし、フェミニズムとはまたひと味違う、家族の見方を提示してくれるでしょう。

令和2年2月4日 院長 松本康宏