2022/02/08

にも包括

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 「寿命が延びた分、人生計画を見直さないといけない」。最近そんな声をよく聞きます。その際、用いられるのが「人生100年時代」という言葉。しかし、将来を予測するのはそんなに簡単なことではありません。

 学生時代、周囲はみんな、「これからは医者が余る」といっていました。それから15年ほどたつと、今度は「医者が足りない」「日本は医師不足だ」と言い出すようになります。さよう巷の予想とは、あてにならないものなのです。

 まして「個人の人生」ともなると、これは予測のしようがありません。結婚相手といつ出会うかも分かりませんし、子どもがいつできるかも分かりません。そもそも平均寿命は知っていても、個人の寿命を知っている人などいないのです。

 なお人生設計も、過ぎれば弊害が出てきます。「30(歳)であれをして、40でこれをして、50になったらこのようにする」。そう考えていても、まずその通りにはなりません。予定が狂えばイライラするのは人間のさがです。仮に夢が叶ったとしても、実は何かを犠牲にしているのかもしれません。「40歳でマイホーム」。そのために旅行代や交際費を削ります。その結果、本来得られたはずの「体験や人脈」を失っているかもしれないのです。

 思うに人生設計には、<縦の方向>と<横の方向>があるのではないでしょうか。たいていの人は、人生設計というと、将来(縦)に向けたプランを考えます。しかし、先ほど述べたように、未来を予測するのは難しいし、うまくいったとしても多少の弊害を伴います。であれば、横に拡げてみたらどうでしょう。例えば、働いている人であれば、自分の部署や会社以外にも目を向けてみる。そういったプランの立て方です。

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 では実際、精神科の領域だと、どういったところに目を向けてみればよいのでしょう。私はその一つとして「にも包括」をお勧めします。

 「にも包括」とは、精神障害者対応できる地域支援のこと。支援を行う上で、リーダーシップを取るのが保健所、シンクタンクが精神保健センターとされています。この2年間、国も保健所もコロナのせいで、「にも包括」にまで手が回りませんでした。しかしまもなく、コロナとの折り合いがつきそうです。そうなれば、「にも包括」も、にわかに活気づくのではないでしょうか。

 「にも包括」の目的(方向性)はおおよそ次の2つです。一つは、精神障害者の長期入院を減らすこと。そしてもう一つは、地域に埋もれている「精神的にすごく困っている人たち」に手を差し伸べること。「困っている人たち」とは、精神疾患を有している人に限りません。ひきこもりや依存症、人生に絶望している人、DVや虐待の被害者・加害者、こういった人たちも含みます。

 さらに「にも包括」が画期的なのは、ピアサポーター(当事者)の力を借りることにしている点です。依存症やひきこもりから脱却するには、専門家の話を聞くこと以上に、回復した当事者の話(体験談)を聞くことが大切です。この点、当院も何かできることはないかと考え、『当事者の声を聴く会(仮題)』を立ち上げることにいたしました。

 人生100年時代。仕事や生活の幅を拡げておくことは重要です。精神科と接点のある方は、「にも包括」に関心を持たれてはいかがでしょう。

令和4年2月8日
院長 松本康宏