2022/03/02

加害者との関わり

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 最近ぼんやりと、犯罪者(や加害者)との関わり方について考えています。実は同じようなことを考えている人が増えているのかもしれません。以前ブログでご紹介した『すばらしき世界』という映画も犯罪者の更生がテーマでしたし、最近上映されていた『前科者』も、保護司が主人公の物語でした。

 書籍では『刑務所の精神科医-治療と刑罰のあいだで考えたこと』(みすず書房)という本が最近出版されています。私も読んでみましたが、これは良書です。著者は自説に至った精神医学的、社会的背景を誰もが分かるように説明してくれています。自分の主張を無理に通そうとしたり、読者を煽ったりする面が全く見受けられません。おそらく実直な方なのでしょう。

 加害者に対する精神療法については、次のように記されていました。

 <精神療法にはいろいろな流派や技法がある。細かく数えていくと際限がないが、一説によれば数百に及ぶらしい。その中に加害者の精神療法に向いている技法があるのだろうか。>

 <結論から言えば、何か特定の技法が相応しいということはないように思う。ロジャーズ派の精神療法は患者との関係を確立するうえで参考になる。精神分析は患者心理の理解に、家族療法の知見は非行・犯罪の発生の理解にそれぞれ役立つ。加害者を対象とする精神療法は、精神療法の中でも相当の応用編である。特定の技法にこだわらず、使える技法はなんでも使い、できることはなんでもするというのが適切なスタンスであろう。>

 私も著者と同じく精神科医であるため、同じテーマを与えられたら、上のように記すでしょう。しかし実際、自分が関わるとなれば、正直にいうと、次の点が心配です。それは加害者に対する偏見を本当に拭い去れるかという点です。例えば、上から目線で叱責したい気持ちが湧いてくるかもしれませんし、誤解が生じれば過剰な疑念も抱きそうです。こういった関わる方の心理的問題(偏見)をクリアーするのが一番難しそうに思います。

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 なお犯罪防止という観点では、社会的な視点も重要です。多くの加害者が不遇な環境で育っています。それ故、社会は虐待の問題(子育て支援)に取り組まなければなりません。しかしこれには莫大な時間と労力を要します。

 もう一つ重要なのが貧困問題です。最後の砦といわれる生活保護制度も、充分に機能しているとは思えません。捕捉率が低すぎます。受給者に対するバッシングもなくなりません。多くのバッシングはお門違いな内容ですが、「最低賃金で働いても生活保護と変わらない」といった意見には、耳を傾ける必要があるでしょう。生活保護と最低賃金の問題は切り離せません。

 大阪のビル放火事件や埼玉の猟銃事件といった凄惨な事件も、犯人のパーソナリティに着目するだけでは不十分です。今後同様の犯罪を防ぐために、経済面で工夫できたことがないか、仮に工夫できていれば展開が変わったのか、その点についても検討すべきです。

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 より良い社会を作る上で、極めて重要なのに取り残されがちなのが、加害者への関わりです。とはいえ今の私にはまだ難しそうです。歳をとって、もっと平穏な気持ちになれたら、挑戦してみたいと思います。

令和4年3月2日
院長 松本康宏