2019/11/01

うつ

 冬の到来を感じる今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 

 今回は、「うつ」の話です。

 ①30代のシステムエンジニア。これまで月に100時間を超える残業をこなしてきました。
しかし、数か月前、異変が生じます。眠れなくなったのです。次第に集中力を欠き、ミスを連発。ついには仕事を休むようになりました。精神科で治療を受けていますが、2年経過した今もまだ本調子とまではいきません。

 ②30代女性。医療現場で必死に働いてきました。
落ち込みがちな患者さんを励まそうと声がけを怠りません。しかし、ある時、自分を糾弾した投書が明るみに出ます。「患者の気持ちも分からず、余計なことをいうな」といった内容でした。誤解した上司から叱責も受けました。その結果、彼女はうつになって退職。半年経った今も気分は晴れません。

 ③40代男性。小太りで頭髪の薄くなった彼は、1年前「うつ」を経験しました。
今はすっかり回復してハツラツとしています。元気のない部下には、熱のこもった口調で「うつを経験して回復した俺は怖いものなし!」「きみも必ず良くなる!」と語りかけます。

 ④50代女性。他者配慮性があって秩序を重んじるタイプです。
その彼女が、ふさぎこむようになりました。言葉もなかなか出てきません。そして、入院。しかし、入院して2カ月を過ぎたあたりからでしょうか。気分が改善してきたようです。半年を経た今、すっかり元気になり、従来通り家事をこなしています。

 ⑤20代女性。「さち」の薄い人生です。親とは疎遠。虚しくて仕方がない毎日。
同居している男性からは時々暴力を振るわれている様子。そんな状況のせいか昼間から飲酒しています。あるクリニックを受診したら、「うつ病」と云われました。

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 現在のうつ病仮説はとても分かりやすいものです。脳内に約1400憶あるとされる神経細胞。これらが樹状突起を伸ばし、くっつき合うことで、無数の神経回路を形成しています。うつ病は、ストレス等でこの樹状突起が減り、いくつかの神経回路が働かなくなった状態と考えられています。植物に例えると、枝や葉っぱが枯れてしまった状態。そこでセロトニンという肥料を与え、枝や葉っぱが伸びてくるのを待ちます。それが、うつの回復です。またこういったストレスによる神経細胞の損傷に、コルチゾールというホルモンが影響していると推測されています。

 このように仮説の理解は簡単ですが、うつになった「人」を理解することは簡単ではありません。

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 上に臨床素材を5つ用意しました。テレビ等で「うつ」の特集があると、よく取り上げられるのが①のケースです。過重労働により消耗したタイプといえます。コルチゾールが関与したかどうかは分かりませんが、寝不足とコンピューターのやり過ぎが脳にダメージを与えたのはまちがいないでしょう。

 ②は『燃え尽き症候群』という見方もできるでしょう。医療や教育に携わる者の労働環境は決して良いものではありません。それでも頑張れるのは、感謝してもらえるから。それが裏目に出ると、このような危機を迎えます。看護師や学校の先生に『燃え尽き症候群』を認めやすいのもそういった理由からです。多くは回復に時間を要しますが、神経細胞の損傷とはまた別の現象が起きているように思えます。

 ③は躁うつ病よりの人かもしれません。個人の体験が他の人にも当てはまるかどうかは分かりませんが、善意と正義感に満ち、自分の体験を伝えようとしているのでしょう。

 ④は内因性のうつ病。メランコリー親和型と呼ばれるものです。昔、「うつ病」といえば、 このタイプを指しました。『寅さん』でいうと、人柄的には“たこ社長”が③、“さくら”が④です。

 ⑤はパーソナリティ障害あるいは複雑性PTSDかもしれません。関わりが難しそうです。

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 『うつヌケ』という本があります。うつの体験談を漫画にしたものです。作者の田中さんも自分の体験談を載せています。田中さんはうつになった原因を「合わない仕事をしている自分が嫌いになったから」と分析しました。また、「うつから抜け出せたのは、朝目覚めた際に、自分をほめる言葉を自分に掛け続けたから」と捉えています。

 この本を読むと改めてうつにも色んなタイプがあることが分かります。だから原因や対処法も人それぞれ。ただ、自己流の対処は危険を伴います。専門家と相談することもご検討頂ければ幸いです。

令和1年11月1日 院長 松本康宏