2021/03/12

ぜいたくな一日

 皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
先日、映画館に出向き、『ファーストラブ』と『すばらしき世界』の2作を鑑賞してきました。

 映画『ファーストラブ』の主人公は、北川景子さん。主人公が公認心理士のせいもあって、内容は精神分析のオンパレード。抵抗、転移、逆転移、近親姦による心的外傷、事後性といったものが扱われています。

 分析は“アハ体験”を伴います。“アハ体験”とは、「そういうことか!」といった情緒を伴った「気付き」。重いストーリーの割に、この作品に心地よさを感じるのは、そういったことも影響しているのでしょう。

*****
 『すばらしき世界』は“すごい”映画だと思いました。その理由を書きながら考えてみます。

 まず、あらすじから。主人公の名は三上。元ヤクザです。13年前、殺人を犯し、旭川で刑に服した後、社会に出てきます。しかし、三上を温かく迎えてくれるほど、世間はあまくありません。冷たくあしらわれる日々が続きます。しかし、そんな三上を支え、助けようとする人たちもいます。そういった人々との交流が、おそらく「すばらしき世界」なのでしょう。

 では、この作品の何がすごいのか。それはやはり、「リアル」な点です。

 私は映画を観る前、次のように想像していました。
<罪を犯すには止むに止まれぬ事情があったのだろう> <主人公は罪を犯した後、強い自責の念にかられているのではないか> <そのぶん、葛藤的な心理描写が多いのではないか>

 しかし、想像とは全く違っていました。主人公は自分が犯した罪を全く反省していません。「仕方ないだろ」と、どこ吹く風です。

 三上(主人公)は、瞬間沸騰湯沸かし器のような人物。すぐにカッとなります。おそらく60歳前後の設定だと思いますが、それにしては動きが良く、ADHDの名残のようなものを感じさせます。

 ドラマで見かける「反社会性人格障害」といえば、大抵は知能犯でかつ愉快犯です。しかし、実際、一番多いのは、この映画に出てくるようなタイプ。不遇な環境で育ったせいか、粗野で衝動性が高く、社会規範や「ほどよい感覚」が身についていません。

 三上を支える人たちも、これまた「リアル」です。彼らは、三上に「逃げること」を教えます。とにかく、腹が立ったら、その場から去る、そういう方法があることを教えます。これは的を射た対応です。反社会性人格の人には洞察的な技法(自分を見つめる)より、「別の手段(方法)があること」を学んでもらう方が効果的です。

 支える人たちの対応は温かく、三上もそれに救われます。支える人の中には、スーパーの店長(六角精児)もいます。良心的でおせっかいな人物です。何の得にもならないのに、根気強く、三上を諭したり、諌めたりしてくれます。また、三上によいことが起こると、一緒に喜んでくれたりもします。

 そんなやりとりを見ていると、「治療に活かせないかなぁ」とか、「ああいうふうに関わるとうまくいくかなぁ」等とした考えが浮かびます。ただ、結論をいうと、「やはり、難しいかな」というのが、正直なところです。

*****
 三上よりも病理の軽い人たちですが、私も何人か、反社会性人格の人と関わったことがあります。しかし残念ながら、うまくいきませんでした。内省が進むと、患者さんは抑うつ的になります。その際には、「この人、変われるかな・・・」と思ったりもします。しかし、抑うつ感に耐え切れず、酒を飲んで苦しい気持ちを吹っ飛ばす・・・つまり暴れる、そういったことの繰り返しでした。

*****
 『ファーストラブ』と『すばらしき世界』では、人が変わることの難しさが描かれています。ただ、希望も散りばめられている点が、なんとも「すばらしい」ところです。

令和3年3月12日
院長 松本康宏