2020/06/01

体験談とミーティング

 一粒で二度おいしいアーモンドチョコ。そのように表現すれば、不謹慎と叱られるかもしれません。しかし、病気の体験を綴った本は、その表現が似合います。知識が得られるだけでなく、病気になった人の気持ちも知ることができるからです。

 今回はそういった本を3冊ご紹介いたします。

*****
 一冊目は『乗るのが怖い』。これは長嶋一茂氏によるパニック障害の体験談です。一茂氏は10年以上、この疾患に悩まされました。

 精神疾患は世間から理解されにくいものです。パニック障害もその典型。この本からもそのことがよく伝わってきます。

 一茂氏は父にインタビューするため、巨人のキャンプ地、宮崎に向かいます。飛行機を使えばすぐですが、パニック障害になってからは怖くて乗れません。そこで、車を運転し、やっとの思いで着いたことを伝えると、「一茂、バカだな~。宮崎までは飛行機があるだろ~」とあくまで天真爛漫な父。長嶋親子のやりとりが目に浮かぶようで笑ってしまいます。しかし、実は深刻な話。

 この本では、以上のようなエピソードを交えながら、一茂氏の心理が素直に書かれています。好感が持てるのと同時に、学ぶところも多い書と感じました。

*****
 次は、『しらふで生きる』です。これは町田康氏が書いたアルコール依存の体験談。

 内容は、彼の思索で占められています。「どうして酒を飲んでしまうのか」「どうしたらやめられるのか」とした自身への問いかけから始まり、「普通とは楽しくないもの」「楽しいことがあるのが普通と思うから、楽しくない現実を酒で紛らわせてしまう」とした考えに至ります。

 それにしても「普通に生きる」というのは難しいものです。「そんなの簡単!」と思う方は、普通を「平凡」と言い換えてみてください。

 かねてから摂食障害とアルコール依存は似ていると感じてきました。摂食障害の場合、やせ症の人は必ず「回復恐怖」を伴います。それは表面的には体重が増える恐怖。しかし、深層的には平凡な自分に戻ってしまう恐怖です。

 また、先人アドラーは「普通である勇気を持とう」と語っています。劣等コンプレックスがあるから、人より優れようとか、目立とうとか、自分を良く見せようとするわけです。まあ、こういった心理は大なり小なり誰もが持っています。勿論、私も例外ではありません。こうしたブログを書く際も、つい見栄を張ってしまいます。

 以前、蛭子能収さんのエッセイを読んで感心しました。「僕は一日でも長生きしたい」「だから散歩している」「いつもお金が落ちていないか下を向いて歩いている」「お金が落ちていたらすごく嬉しい」といった内容でした。文章には整えた跡がなく、内容は稚拙、逆にすごい!と思いました。全く、着飾ったところがないからです。

*****
 さて、少し脱線しました。三冊目の『上を向いてアルコール』にまいります。

 これは、小田嶋隆氏が書いた依存症の体験談。今人気のコラムニストだけあって、話が面白く、私的には、『しらふで生きる』より楽しめました。

 「気ままな人間として生まれてきた自分は、常に自分自身の機嫌を取ることに腐心している」とした分析には、「そうだよな」と思わず膝を打ちました。私も同じだからです。また、「面倒くさがり屋で、ものごとを単純化させたい気持ちが強い」、それが「まあ酒でも飲むか!という考えにつながっているのではないか」という分析も印象に残ります。

 上の二冊を読んでいると、「酒のみ思考(造語)」というのがあるのに気付きます。ただ、それだけが依存症の原因ではありません。ミーティングに参加していると、「考え方」だけでなく、「酩酊体質」や本人の置かれている環境、あるいは歴史、そういったものが掛け算になって「依存症」を形成し、そこから抜け出しにくくなっていることが分かります。

 町田氏や小田嶋氏の語りや悟りは「さすが」としかいいようがありません。しかし、両者がミーティングに参加していれば、さらに面白い論が展開したのではないかとも思います。

*****
 当院も依存症のミーティングを開催しています。関心を持たれた方は、是非、医療相談室にお問い合わせ下さい。

令和2年6月1日
院長 松本康宏