2020/11/06

依存症その2

 皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

 今回は依存症《その2》です。

 前回のブログでは依存症の全体像について触れました。今回は、依存症に関するこれまでの「疑問」と、最近の「対応」についてお伝えしたいと思います。

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 過食嘔吐を繰り返す若い女性には親身でも、アルコール依存のおじさんにはツレナイのが世の中です。しかし、これは考えてみれば不思議な話。どちらも依存症で困っている人たちだからです。

 また精神科医なら、「助言」というものが、いかに無力かを知っています。子どものけんかで「ごめんですむなら、警察いらん!」というのがありますが、「助言ですむなら、精神科なんかいらん!」というわけです。しかし、これまでの医療は、アルコール依存の人に「酒害」の説明(助言)ばかりしてきました。「こんなんで治るわけがない」というのが疑問(もやもや)の一つです。

 酒害に加え、「ストレスを避けよう」とか、愚にもつかないことを言ってしまうのも“もやもや”の一つです。あいさつ(社交)としてなら構いませんが、治療としてこの文言を繰り返し述べていたとしたら、精神科の医療としては低レベルと言わざるを得ません。

 誤解がないようにお伝えしておきますと、「ストレスを避ける」こと自体は大事なことです。しかし、「どうすればストレスを減らせるのか」、あるいは「ストレスを受けた場合にどうすれば良いのか」といったことを話し合わなければ意味がありません。

 ちなみに人によっては飲酒も一つのストレス解消法です。仕事がうまくいかなかった、失恋した、誰かとけんかした、そんな時に“憂さ晴らし”として、酒はよく用いられます。

 その際、気を付けておくべきことがあります。それは一人で飲まないことです。一人だとどうしても嫌なことを思い出しながら飲んでしまいます。するとストレスは減るどころか増えてしまいます。一方、友人と飲みに行って、旅行の計画やおいしい店の話などをするとストレスは軽減します。つまり、嫌なことを忘れて、新しいことを考えるのが重要なのです。

 依存症に関わると、どうして「できもしない目標」を立ててしまうのか、これも不思議な話です。「今回の入院できっぱりやめましょう」とか「これが最後のチャンスです」とか・・・。そう言われると、いわれた方は「分かった」としか答えようがありません。しかし、依存症は簡単には治りません。再飲酒もあり得ます。すると、「あの時、“分かった”といったじゃないか」という話になり、関係が悪化します。このように、できない目標を立てても、互いに苦しくなるだけです。実現可能な目標を立て、「小さな成功」を積み重ねていく方が得策です。

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 さて以上のような疑問(もやもや)を踏まえ、最近の対応について見ていきましょう。

 まずは、再飲酒した時の関わりです。仮に退院して1カ月で再飲酒したとしましょう。以前であれば、「何やってんだ!」という雰囲気でした。それが今は、「1カ月頑張れたじゃん!」「今度は3カ月頑張ろうよ」といったふうに受容的になっています。“あまい”と言われるかもしれませんが、厳しくするよりこちらの方が効果的です。

 「ルールを守れない」。依存症の人の中にはそういった人もいます。以前であれば、約束が守れないと、「もう当院では関わることができません。他の病院に行って下さい!」とした対応でした。それが最近は、「約束が守れなかったので1カ月は相談に乗れません。しかしその時期が過ぎれば、また相談に乗りますよ」としたやり方に変わってきています。これはまさに“コペルニクス的転回”といえるでしょう。

 また、医師はこれまで防衛線を張って次のように言ってきました。「本人の意志の問題です。だから意志を強く持たないとどうしようもできません」。要するに治してあげることができないから、こう言っていたのです。「治してあげますよ」なんていうと、再飲酒するたびに医者は家族から責め立てられます。

 しかし、先ほどお話ししたように「治す」という目標から、別の目標に変えれば良いのです。例えば、「関係づくりをしていきましょう」とか、「長生きしましょう」という目標にすればできることが容易に見つかります。勿論、その際にはミーティング(依存症プログラム)も有効です。

 なお、依存症の人の中には、対人関係に難を抱えた人がいるのも事実です。そういう人と関係を続けていくのはなかなか大変。そのため、次のようなことも知っておいた方が良いでしょう。

 パーソナリティに問題を抱えた人と深く関わっていると、いつのまにかその人の課題が、治療者の課題(責任)にすり替わっていることがあります。ひどい場合だと、「どうして治してくれないんですか」「先生がいったとおりにしてきたじゃないですか」と詰め寄られます。

 しかし、これは考えてみるとおかしな話。そもそも本人が自分で問題を抱えきれないから、家族が抱えようとし、それでも難しいから精神科に来たのです。

 難しいケースの場合には、時々こういった説明をしておくと、お付き合いを続けやすいように思います。<続く>

 紙幅の都合で、次回のブログ(11月13日)に続きを載せます。

令和2年11月6日
院長 松本康宏

<参考>
『アルコール依存症治療革命』成瀬暢也著 中外医学社
『薬物依存症』松本俊彦著 ちくま新書