2021/09/29

旅人のコート

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 私はここ1年で腹囲が急に増しました。周囲からも、「やばくない?」「大丈夫?」と言われます。しかしなぜか危機感が出てきません。それはおそらく、「否認」の心理が働いているからでしょう。

 否認とは、現実に向き合わず、ないように振る舞うこと。不安に直面することで、気持ちが壊れないように働く、「防衛機制」の一つです。

 依存症も、「否認」が出現しやすい病です。多くの人が、自分を納得させるかのように、「俺はアル中じゃない」「もっと飲んでる奴もいる」「まだ軽症だ」と、うそぶき?ます。本当のところはそれだけ不安なのかもしれません。

*****
 「防衛機制」に関しては、イソップ物語の『狐と葡萄』が良い例です。

 狐は高い所にぶら下がっている葡萄を取ろうともがきます。しかし、手が届かず、結局、取ることができません。そこで最後に吐いた言葉が以下のとおり。「チェッ、どうせこの葡萄は、すっぱいに違いないや!」。

 これは明らかに負け惜しみです。それを聞いて、多くの人が、「情けない狐だなぁ」とか「恥ずかしい話だね~」と思うことでしょう。しかし、精神科的にみると、ちょっと違います。狐の取った言動は、否認の一種、「合理化」と呼ばれるもの。すなわち、心を守るための防衛機制なのです。

*****
 イソップ物語というと、『北風と太陽』の話も有名です。

 それは、こんなあらすじでした。北風と太陽が競争をします。どういう競争かというと、旅人のコートを脱がせる競争。はじめに、北風が強風で、コートを吹き飛ばそうとします。しかし旅人は、コートを強く抱きしめて、放そうとしません。今度は太陽の番。太陽は旅人を照らし続けます。すると体が温まり、旅人は自然とコートを脱ぎました・・・といった内容。

 イソップ物語は、実は哲学的な話です。それを示す、こんな逸話も残っています。

 「無知の知」で知られる哲学者、ソクラテス。彼は、若者を惑わしたという罪で裁判にかけられます。判決は、毒殺の刑。ソクラテスは、獄中、弟子に命じてある本を届けさせました。そして死ぬ間際まで、その書を読んでいたといわれています。それが『イソップ物語』。

*****
 『Sunミーティング』の名称も、『イソップ物語』に由来します。『北風と太陽』の「太陽」です。

 最後に一つ、問題です。

 『北風と太陽』に出てくる、<旅人のコート>は、依存症の治療において、何を隠喩しているのでしょう? 私は、「否認かな」と思いました。答えは一つではなさそうです。皆さんはどうお考えになられますか?

令和3年9月29日
院長 松本康宏

追伸:『秋田こころの健康公開講座』で11月13日(土)13;30~16;30、「依存症」の話をします。場所は、生涯学習センター。ふるってご参加下さい。お問い合わせは、ユックリンまで(018-825-2270)。