2020/07/03

発達障害-その3

《その三》
 皆さま、いかがお過ごしでしょうか。発達障害に関する話の続きです(計4回の3回目)。

【精神科医療と自閉症】
 これまで精神科医療からみて自閉症は縁遠い存在でした。それには次のような経緯があります。

 1960年代、自閉症は発達障害なのか、統合失調症なのか、よく分かっていませんでした。当時、自閉症を「子どもの統合失調症」と考える精神科医も少なくなかったようです。厚生省も、自閉症を医療の対象にすべきか、福祉でみていくべきか、判断がつかずにいました。そこで1969年に、自閉症をみる病院が全国に3カ所作られ、実際に治療を行ってみることになりました。

 しかし、その結果、自閉症が改善することはありませんでした。そこで自閉症は医療ではなく福祉でみていく、つまり病院ではなく施設が関わる、そういった方向性になったと聞いています。

 それから40年。発達障害を通して、精神科医療は自閉症と再会します。

 参考:自閉症論再考(批評社) 小澤勲

【発達障害が世間で関心を集めた背景】
 発達障害に対する関心は、初め教育界で高まりました。2005年に施行された「発達障害者支援法」もそれを後押しします。しかし支援するにはおのずと見立て(診断)が必要。そこで医療界にもその波が押し寄せてきました。

 ちょうどその頃、精神科の医療も、変革期を迎えていました。脳の特性(認知)をきちんと捉えようとする動きが起き始めていたのです。こんにち、精神科医療と発達障害が結びついているのも、このことが大きいと思います。もし認知を扱う土壌が医療に備わっていなければ、40年前同様、発達障害は医療から切り離されていたかもしれません。

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 精神療法には情緒を探るやり方と、認知を扱うやり方があります。前者は、別の言い方をすれば、患者さんに変化してもらうやり方。後者は、主に環境を変えようとするやり方です。そして自閉症スペクトラムの人の場合、後者のやり方、環境調整が有効とされています。

 以上について、もう少し説明を加えます。まず初めに前者の「情緒を探るやり方」をみていきましょう。

 <あなたのところに、一人の紳士がやって来ました。相談があるとのことです。新しい秘書が来てから、その人のことが気になって仕方がない。どうも以前からふくよかな女性が職場にいると落ち着かなくなる。バカなことで悩んでいるのは分かっている。しかし、仕事も手に付かないし、どうしていいのか分からないのでやってきた・・・とのこと。>

 もしこういった相談を受けたら、皆さんなら、どう対応されますか?

 「生活史を尋ねる」というのも一つの方法です。人は両価的な感情を引きずる傾向があります。例えば、大好きな母が自分を置いて出て行ったとか、自殺してしまったとか、そういったことを経験した場合、好きな気持ちと嫌いな気持ちが混在し、感情をうまく処理することができません。そのためその気持ちが潜伏して残ります。もしかすると、このケースも、そういった過去が明らかになるかもしれません。

 精神科の歴史において、「生活史を尋ねる」というのは、一つの大きな発見です。このやり方は多くの人の関心を引きつける一方、非科学的とした非難も浴びてきました。もう一つ難点があります。それは、時間がかかることです。その紳士が過去を振り返る中で、大好きな母に対する恨みの感情、つまり両価的な気持ちに気付いたとしても、それは回復の始まりにすぎません。なぜなら、こんがらがった気持ちをほぐし、新しい納得の仕方、例えば、「母には母の人生がある」とした気持ちに至るまで、相当な時間を要するからです。

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 次にもう片方の「認知を扱うやり方」をみていきます。まずは、学校で習った「パブロフの実験」を思い出してみて下さい。はじめベルの音を聞くだけでは唾液を出さなかった犬が、エサを与えるのと同時にベルを鳴らしていると、ベルの音を聞いただけで唾液が出るようになります。つまりこれは、「脳に新しい神経回路が形成されたこと」を示しています。

薬物依存も同じです。最初は、注射器を見ても何とも思わなかった人が、それを見ただけで覚せい剤をやりたくなります。だから、注射器というトリガーを避けることが大事。このように現在の依存症治療も、脳の特性を知った上で、「どうすれば依存症から脱却できるのか」とした訓練を行っています。(しかし、実際のところ、「自分のことを心配してくれている人がいる」とした情緒が回復に一番寄与しているようにも思えます)

 以上が、情緒を探るやり方と、認知を扱うやり方の一例です。繰り返しになりますが、現在、医療と発達障害がつながっているのも、両方の視点を持った関わり方をしているからだと思います(続く)。参考:精神療法入門ゼミナール① 西園昌久 中山書店

 紙幅の都合で、次回のブログ(7月10日)に続きを載せます。

令和2年7月3日
院長 松本康宏