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2024/04/24

いにしえの教え

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

 時代は変化します。「自分はどう生きるか」「自分の人生の目的は?」こういった悩みを抱えて精神科を受診する若者は今やいなくなりました。これは、受けてきた教育と関係がありそうです。そこで今回は、『三国志』を題材に「教育」について考えてみようと思います。

 

 現代の教育三原則といえば何でしょう。みんなと仲良くする・他人に迷惑をかけない・勉強をして(偏差値の高い)学校に入る。こういったところでしょうか。いずれも間違いとは言いませんが、何かが不足している気がします。

 

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 中国の歴史書、『三国志』は日本でもよく知られています。これは吉川英治氏に負うところが大きいと思われます。横山光輝氏の漫画『三国志』も吉川氏の小説を元に描かれています。

 

 吉川氏が『三国志』を書いたのは、戦前から戦中にかけてです。その時代に活躍した吉川氏が心理学を学んだとは思えません。しかし彼は、「人間学」の天才でした。

 

 三国志の三国とは魏・呉・蜀(ぎ・ご・しょく)のことです。そして蜀を建国したのが主人公の一人、劉備玄徳(りゅうびげんとく)。吉川氏は劉備を説明する上でエピソードを創作します。親子関係を示すエピソードです。実直や親孝行といった言葉の羅列より、関係性を示した方が、「人間性」が伝わることを知っていたのでしょう。

 

 以下は、お茶と刀にまつわる親子のやりとりです。

 

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 玄徳は二年間必死に働き、お茶を手に入れます。当時、お茶は極めて貴重な品物でした。久々に実家に戻った玄徳、そのお茶を母にプレゼントします。母はたいそう喜びますが、玄徳が差している刀が替わっていることに気付き、表情を変えます。

 

 刀を失った理由を詰問する母。それに対し、玄徳は答えます。「盗賊に茶を奪われてしまったこと」「それを取り返してくれた恩人に刀をあげてしまったこと」。聞いた母は憤然とし、そして嘆き悲しんで、もらった茶を川に投げ捨ててしまいます。

 

 玄徳は漢王朝の血を引く人物でした。そのため、今は貧しくとも世の中が乱れた際には、先祖伝来の刀を持って立ち上がらなければなりません。その刀を他人(ひと)にあげてしまったのです。

 

 「お前は国のことを考えず、我が家のことばかり考えていたのか」「人生の目的を失ってしまったのか」「乱れた世を正し、困っている人々を救うのがお前の使命ではなかったのか」。玄徳の母はそう伝えたかったに違いありません。

 

 玄徳は猛省し母に告げます。「貧しさゆえに自分の家のことばかり考えていました」「初心に帰り、社会のことを考えます。乱れた世の中を正そうと思います」。

 

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 数年前、上映された『鬼滅の刃』。覚えている方も多いかと思います。この映画での実質的な主人公は煉獄(れんごく)さんでした。

 

 「煉獄家の教え」はこうです。「世の中には強く生まれてきた者と、そうでない者がいる」「ではなぜ強く生まれてきたかというと、それは弱い者を守るため」。煉獄さんは、母の教えに従い、鬼と戦って壮絶な死を遂げます。多くの観客が大泣きしていました。

 

 私の周りのお母さん方もこう言っていました。「私も息子をあんなふうに育てたい」と。それは意外でした。玄徳や煉獄さんの母のような考えが今も残っていたことに対してです。そしてこうも思いました。「今の教育は、心を打つ『教え』があまりにも不足しているのではないか」と。

 

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 劉備玄徳や煉獄さんを目指す必要はありません。危なすぎます。しかし、今の教育に「いにしえの教え」がちょっぴり残されていてもいいのではないかと考えています。

 

令和6年4月24日

院長 松本康宏

 

追伸:これで古代3部作(『卑弥呼の鏡』『お伊勢参り』『いにしえの教え』)は終了です。引き続きご愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。

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