2024/07/19
人と地域を
もっと健康に
フォレスト・ガンプ
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
先日、映画館で『フォレスト・ガンプ』を鑑賞しました。上映30周年を記念した4Kニューマスター版です。実は映画館でこの映画を観るのは初めて(DVDでは何回か観ています)。アカデミー賞を6部門受賞した作品を大きなスクリーンで観ることができたのはラッキーでした。
この映画は二人の人生で構成されています。フォレスト(トム・ハンクス)と、フォレストが幼い頃から思いを寄せるジェニー(ロビン・ライト)です。
*****
精神科で“ボーダーライン”というと、「境界知能」もしくは「ボーダーラインパーソナリティ(境界性パーソナリティ)」を意味します。
境界知能の人はIQでいうと70~84(IQの平均は100)。知的障害とまではいえませんが、問題処理能力が低く、仕事が続かなかったり、家庭を営むのが困難だったりします。
境界性パーソナリティの人は、見捨てられ不安が強く情緒が不安定。そのため対人関係がうまく保てません。自傷や大量服薬といった問題行動もよく認めます。
*****
フォレストは知能こそ平均に達しませんが、純真な心の持ち主です。周囲から見下されても優しさを失いません。そんな彼に運が味方します。足の速さを買われ、大学ではアメフトの選手として活躍しました。ベトナム戦争ではたくさんの仲間を救出し、表彰されます。その後、作った会社は大繁盛。大金も手に入れることができました。
一方、ジェニーの人生は不幸続きです。子どもの頃、父親から性的虐待を受けていたせいか、情緒が安定しません。暴力的な男と付き合ったり、薬物に手を出したり・・・。最後はAIDSを暗示する病気で亡くなります。
境界知能のフォレストと境界性パーソナリティのジェニー。どちらが生きづらいか、精神科医の私にも分かりません。しかし、二人の人生からは思い通りにならない「せつなさ」がひしひしと伝わってきます。
*****
この映画を作ったのは、ロバート・ゼメキスです。
今回彼が用いた手法は、実際、アメリカで起きたできごとや実在した人物を映画のなかに差し込むことでした。
公民権運動、ケネディ大統領暗殺、アポロの月面着陸、ベトナム戦争・・・。それらの映像を観ると同時代に生きていない私でも懐かしさが込み上げてきます。
また、“クスッ”と笑うシーンもありました。エルビス・プレスリーの動きやウォーターゲート事件の発覚にフォレストが関与していたように見せかけたシーンです。
*****
以前、私は絵本の意味を考えていました。「これは何を意味しているのだろう?」。その問いに答えてくれたのが、『絵本の力』(岩波書店)です。
絵本の製作者はいいます。「絵本から何かを学ぼうとしなくていい」「ただ、子どもが驚いたり、面白いと思ってくれればいい」「そういう思いで作っています」と。つまり、意味なんて求めていないのです。
ゼメキス監督も同じではないでしょうか。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をはじめ、彼の作品には、これといったメッセージがありません。あるのは、「観客を喜ばせたい」という思いだけ。そこが、彼の作品の良さだと思います。ゼメキス監督の映画を観て、元気づけられた観客はきっとこう思うことでしょう。「いい映画だったなぁ~」「よし、自分も頑張ろう!」と。
*****
「人生はチョコレートの箱。何が入っているか分からない」。これはフォレストの母が語った言葉です。言葉のとおり、フォレストの人生には、思いがけない幸運もあれば、思い通りにならないこともありました。それらをひっくるめて「人生の面白さ」と言うこともできます。
『フォレスト・ガンプ』という箱には、そういった「人生の面白さ」がびっしり詰まっています。ぜひみなさまも、手に取って味わってみてください。きっと、元気づけられると思います。
令和6年7月19日
院長 松本康宏
追記:9月から発達障がい者支援プログラム『STEP』を開始する予定です。ご興味のある方は、当院医療相談室にお問い合わせください。たくさんの方々の参加をお待ちしています。