2025/02/03
人と地域を
もっと健康に
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マッチング
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
先月、気になった番組がありました。NHKスペシャル、『岐路に立つ東大~日本発イノベーションへの挑戦』です。番組では、起業する学生を支援したり、元ヤンのなかからプログラミングの才能に秀でた人を見つけ出したり、高校生の就職にアルゴリズムを用いたり・・・こういった東大での新しい取り組みが紹介されていました。
日本経済は「失われた30年」といわれます。では、「なぜ成長できなかったのか」「今後どうすれば成長できるのか」。この問題を考えたときに行き着いたのが、人材の「発掘」と「適材適所」です。言い換えれば、「マッチングの問題」といえるでしょう。
ちょうどその頃、私は『マッチングアプリ依存症』という本を読んでいました。精神科医の香山リカさんが書いた本です。本のなかには、マッチングアプリにはまってしまう人の心理やそれを回避するための具体的な方策が記されています。
なおこの本は、マッチングアプリに依存している人だけのものではありません。自分に合った仕事を探している人や、強いては自分の生き方を模索している人にも役立ちます。
香山さんの指摘のなかで一番真理を突いていると思われたのが、「条件面での理想の相手と自分が本当に求めている相手は異なる」という点です。とはいえ、いわゆる「条件」と「感情」はクリアーに分けられるものではありません。人間には、有利なものを好きなものと捉える性質があります。女性がお金のある男性を好きになりやすかったり、給料の高い仕事を天職と考える人が多いのもそのせいです。ここがマッチングの一番難しいところだと思います。
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今、新患の患者さんで一番多いのが、「適応障害」です。職場が合わない、上司と合わない、仕事の内容が合わない、といったことで深く悩み、不眠や抑うつなどの症状を呈して病院を受診されます。そういった場合、必ずしも今の場所にとどまる必要はないでしょう。健康より大事な仕事なんてこの世にありませんし、転職がさほど不利に働く時代でもありません。それどころか、新しいところに行って、“水を得た魚”のようになる人もいます。
とはいえ、不適応を起こしている人がみんな、別の場所に移ることができるかというとそんなことはありません。そのため、自分の考え方を変えていくことも必要です。いわば、条件ではなく、感情を工夫するやり方。私も悩みながら、次のようなことを考えてきました。
職場には人気のあるところとないところがあります。人気のないところに行けば、たいてい周囲から大事にしてもらえます。逆に、みんなが行きたがるようなところに行けば、大事にしてもらえません。代わりはいくらでもいるからです。なおそういったところは入ってからも競争が激しかったりします。そういう意味では、「どこにいってもたいして変わらない」とした考えも成り立ちます。
また、新しい環境に適応する上で、次のような方法も有効です。それは、自分の方からその場所を好きになろうとするやり方です。「ここに来てラッキー」「周囲はいい人ばかり」。初めは半ば強引に、そう自分に言い聞かせます。すると不思議なことに仲間ができてきます。その結果、楽しい時間が増え、本当にその場所が好きになってくるというわけです。
テクノロジーに頼ることも大いに結構ですが、マッチングには、こういった感情面の工夫があることも知っておいて損はないでしょう。
令和7年2月3日
院長 松本康宏
追記:3月8日に『当事者の声を聴く会』を開催いたします。今回が最終回です。多くの方々のご参加を心よりお待ちしています。