2025/08/22
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これからの依存症対策ーその4
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は『これからの依存症対策-その4』。前回の話の続きです。
アルコールには、どの程度、有害性や依存性があるのか。みなさんも興味をお持ちではないでしょうか。ここにランセットという雑誌に載ったグラフがあります(ない方は、頭に思い浮かべてください)。横軸が身体的な有害性、縦軸が依存性。そのなかにさまざまな依存性物質がプロットされています。
一番右上、それが最悪の物質、ヘロインです。そして、真ん中に位置するグループにアルコールやたばこ、覚せい剤が入っています。
アルコールやたばこは法律で認められているため、「それほど悪い物質ではないだろう」と思われがちですが、この図を見るとそうではないことが分かります。「身体的な有害性」と「依存性」といった観点で見ると覚せい剤と何ら変わりありません。
とはいえ、アルコールは「社会の潤滑油」でもあります。また、たばこで幻覚妄想状態になる人はいません。そういったことから、「まあ、仕方がないか」といった感じで認められているのでしょう。
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アルコールが及ぼす害に関しては、おおよそ次の3つに集約されます。①人間関係(家庭)をこわす ②体をこわす(肝臓、すい臓、脳など) ③自殺に結び付く、この3点です。
なお昔から、「酒は百薬の長」といわれたり、「少しなら体にいい」といわれたりしますが、「少しでも体によくない」というのが今の世界の考え方です。
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アルコールの消費量と病気の出現に関しては、3つのパターンがあります。①消費量に比例してリスクが上昇するパターン(高血圧・高脂血症・脳出血・乳がんなど) ②少しの量だとそれほどではないが、ある量を超えるとリスクがグンと上がるパターン(肝硬変など) ③少しだとリスクを下げるが、ある量を超えるとリスクが上がるパターン(虚血性心疾患・脳梗塞・2型糖尿病など)。このように疾患によってもリスクの現れ方は異なります。トータルでみた場合、少しでも体には良くないと考えるのが妥当です。
しかしながら、先述したように、酒には「社会の潤滑油」としての作用があります。そのため、全面的に禁止するわけにはいきません。そこで、落としどころとして、「アルコールの摂取量は男性なら40gまで、女性なら20gまで」とした文言が採用されているのです。ちなみに20gとは、ビール500mlに含まれるアルコールの量です。
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次にアルコールと自殺に関してコメントします。
世の中には、ショックなできごとを機に、自殺をしてしまう人がいます。しかし、そういったケースは少数で、大半は、複数の要因が積み重なった結果、起きています。失業してアルコールの量が増え、うつになったとか、離婚してからお酒の量が増え、体を壊したなどです。
こうしたことから、「アルコール対策」が自殺防止に貢献することはまちがいないと思います。
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最後に、アルコールの観点からみた自殺対策の問題点を一つ指摘しておきます。
自殺者が抱えていた精神障害に関しては、世界の統計だと1位に気分障害(うつ病・双極性障害)がきます。これは日本も同じです。ただ、世界の場合、物質関連障害(アルコール依存症や薬物依存症)が2番目(17.6%)にくるのに対し、日本はたったの1.6%。これは不自然です。日本は薬物依存症の少ない国ですが、アルコール依存症は少なくありません。生前、アルコール依存症の診断がなされていなかった可能性が考えられます。
なおこういった統計も影響してか、日本の自殺対策はうつ病が中心で、依存症は後回しといったかんじでした。今後、依存症というものが、もっと世間で知られるようになると、診断される機会も増えて、自殺対策の重要項目として上位にあがってくるのではないでしょうか。
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以上、『これからの依存症対策-その4』では、主にアルコールの害についてみてきました。次回も依存症の話をします。引き続きご愛読いただければ幸いです。
令和7年8月22日
院長 松本康宏