2025/09/08
人と地域を
もっと健康に

これからの依存症対策-その9
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は『これからの依存症対策-その9』。前回の話の続きです。
以前、(依存症に関する)当院の取り組みを新聞で取り上げてもらったことがあります。とはいえ、マスコミも「依存症」の記事は書きにくいと思います。酒造会社は重要なスポンサーだからです。
私は「お酒を撲滅しよう」とか、「アルコールが世の中からなくなって欲しい」と考えているわけではありません。社会はアルコールと共存すべきだと考えています。そこで、お酒の「飲み方」が課題となります。これからは、脳を麻痺させるために飲むのではなく、「高いお酒を少したしなむ」とした飲み方に変えていくべきでしょう。
なお、忘れてはならないことがあります。それは、社会がアルコールを容認すると、一定数、依存症になってしまう人がいるということです。そういった人はある意味、社会の被害者。叱ったり、遠ざけたりするのではなく、レスキューの対象です。
*****
このブログを読まれている方のなかには、まだ依存症の勉強を始めたばかりの人もいるかと思います。そのような人には松本俊彦先生の『薬物依存症』をお薦めします。依存症に対する基本的な「考え方・関わり方」が学べます。
なお、成瀬暢也先生の『アルコール依存症治療革命』もお薦めしたい一冊です。そのなかで成瀬先生は次のように述べておられます。
①アルコール依存症は「病気」であると理解できれば治療はうまくいく ②治療を困難にしている最大の原因は、治療者の患者に対する陰性感情・忌避感情である ③回復者に会い回復を信じられると、治療者のスタンスは変わる ④アルコール依存症患者を理解するために「6つの特徴」を覚えておく*6つの特徴とは「自己評価が低く自分に自信を持てない」「人を信じられない」「本音をいえない」「見捨てられる不安が強い」「孤独でさみしい」「自分を大切にできない」 ⑤アルコール依存症患者の飲酒は、生きにくさを抱えた人の孤独な自己治療である ⑥断酒を強要せず再飲酒を責めなければ、よい治療者になれる ⑦断酒の有無に囚われず信頼関係を築いていくことが治療のコツである
私がこの本を読んだのは7年ほど前です。当時、「すごいことを書いているな~」「ここまでいうんだと」と思いました。それくらい斬新な内容でしたが、今は当院のスタンスも同じようになっています。
*****
さて、恥ずかしながら私の治療の仕方も少しご紹介しておきます。考え方はシンプルです。①太陽政策でいく ②ミーティングに参加してもらう ③大切なものを増やしていく(居場所・生きがい・楽しみ等)。これが治療の3本柱。
依存症の患者さんが病院にたどり着いたときには、すでに世間から叱られたり、けなされたりして、傷ついていることが大半です。そんな人に北風政策が向いているとは思えません。やはり太陽政策で関係を作り、元気を取り戻してもらうことが一番です。
②のミーティングも極めて重要です。これがなかった頃は大変でした。家族からは依存症の患者さんを入院させて欲しいと懇願されます。患者さんはしぶしぶ入院しても、酒が抜けて体調が良くなってくると、「退院させろ」と言いだします。たしかに、入院していてもすることがありません。とはいえ、退院するとまたすぐ飲酒して問題を起こします。そういったことで悩まされました。
その点、今はミーティングや他の依存症プログラムがあります。それがあると患者さんは医者以外のスタッフとも知り合えますし、断酒の意欲が湧いてきます。ミーティングや依存症プログラムは治療上、なくてはならないものと考えます。
③の大切なものを増やしていくというのは中・長期的な目標です。なお依存症患者のご家族はこの項目を聞いて、誤解されるかもしれません。「これだけ関わってきたのに、自分たちは(本人にとって)大切な存在ではなかったのか」とした誤解です。でも、頭のなかで大切なものが置き換わってしまうのが、依存症という病の「本質」です。本当は家族や友人や仕事の方が大事なのに、お酒が一番、ギャンブルが一番、薬が一番、となってしまうのが、依存症の一番怖いところです。
さらにこのことは裏を返すと、依存症治療の本質を示しているともいえるのではないでしょうか。大切なものに気付いたり、大事なものを増やしていくことが、依存症治療ひいては回復の「本質」だということです。
さて、紙幅の関係上、このへんで止めておきます。引き続きご愛読いただければ幸いです。
令和7年9月8日
院長 松本康宏