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2025/09/12

これからの依存症対策-その10

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

 今回は『これからの依存症対策-その10』。このシリーズ、最終回です。

 

 当院は、アルコール依存症のミーティングで、SMARPP(スマープ)という教材を用いています。この教材は認知行動療法を基に作られたものです。認知行動療法とは、簡単にいうと、脳のくせを知って対応していくやり方。起源は「パブロフの犬」と呼ばれる実験に遡ります。

 

 実験についておさらいをしておきます。<犬にエサを見せると唾液(よだれ)がでます。当然、ベルを鳴らしただけではよだれはでません。そこで今度はエサを与えるのと同時にベルを鳴らします。そして、その行為を繰り返します。すると、初めはベルの音だけではよだれがでなかった犬が、ベルの音を聞いただけでよだれが出るようになります>こういった実験でした。

 

 最初、この話を聞いたとき、「だから何なのかなぁ」と思いました。しかし、改めて考えてみるとこれはすごい発見です。なぜかというと、脳に「新しい神経回路ができたこと」を証明した実験だからです。実は、依存症も同じです。アルコール依存症になる前は酒を見ても何とも思わなかったのに、依存症が形成されると飲みたくて飲みたくしょうがなくなるのです。覚醒剤依存症の人なんかはまさにパブロフの実験のような表現をします。「注射器を見ると脳からよだれが出る」と。

 

 このように脳のなかにやっかいな神経回路が形成されてしまったのが依存症です。そうなると、次のようなことが起こります。きっかけ(トリガー)によって、一旦その神経回路が活性化されると、依存症になる前の100倍、1000倍といったレベルで欲求が生じるのです。そのため、できるだけきっかけを避けることが大事。なお、避けきれず、欲求が高まってしまった際の対処方法を学んでおくことも重要です。

 

 さらにあとで振り返ってみると、次のような事実に気付くこともあります。それは、トリガーに会う前から、すでに「再使用のサイン」が出ていたという事実です。例えば、これまで欠かさずミーティングに行っていたのに、なぜか理屈をこねて行かなくなっていた、などです。こういった「再使用のサイン」を知っておくことも非常に大事です。

 

 以上のようなことを私たちはミーティングで学んでいます。

 

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 ここで、SMARPP(スマープ)の実際の中身を少しご紹介しておきます。<例えば、あなたは、これまでどのような感情におそわれたときに、薬物やアルコールを使うことが多かったですか?>とした質問に対し、教材のなかのチェックリストから当てはまる項目を選んで発表します。そして周囲の人の発表にも耳を傾けます。

 

 あるいは、<あなたは上にあげたようないいわけ(正当化)をしたことはありませんか?>とした質問に対し、自分なりに答えを書いて発表します。そして他の人の発表にも耳を傾けます。

 

 なお当院のミーティングは、3部構成になっています。第1部は、「よかったこと探し」。1週間を振り返り、自分にとって良かったできごとを発表してもらいます。第2部は、医師の講義です。そして第3部がさきほどご紹介したSMARPPを用いたグループワーク。

 

 なお、家族やギャンブル依存症を対象としたミーティングも行っています。それぞれ『Sun-Sunミーティング』、『Sun-Gミーティング』といいます。『Sun-Sunミーティング』ではCRAFT、『S un-Gミーティング』では「ギャンブル障害回復トレーニングプログラム(SAT-G)活用ガイドブック」という教材を用いています。その他、多職種(医師・精神保健福祉士・臨床心理士・作業療法士・薬剤師・管理栄養士など)で構成したKARP(Kaiseikai Addiction Rehabilitation Program)と呼ばれるプログラムも実施しています。

 

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 最後に「ラットパーク」の話をします。

 

 以前、当院は3つの目標を掲げて治療にあたっていると述べました。①賢くなる(勉強する)②つながる(孤独にならない)③長生きを目標にする、この3つです。もちろん、すべて大事な目標ではありますが、このなかでどれが一番大事かと聞かれると、私なら②を選びます。

 

 ケージのなかにいるネズミに依存性物質を与えると予想どおりその物質を欲しがり続けます。しかし、仲間がいて、異性がいて、遊び道具がある「ラットパーク(ネズミの楽園)」という場所に連れてくると、周りに依存性物質を置いておいても見向きもしません。これはいかに環境が大事か、そして「つながり」が重要かということを示しています。

 

 実際、当院のスタッフと親しくなった人は良くなっています。また、治療をしていくなかで、同じ悩みを抱えながら頑張っている人や回復者と出会えることも大きいと思います。

 

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 私は依存症の方と関わることができて本当に良かったと思っています。だから自信を持って、多くの方にこの分野での支援活動をお勧めします。一緒に「これからの依存症対策」を良いものにしていきましょう(終)。

 

令和7年9月12日

院長 松本康宏

〒010-0063秋田県秋田市牛島西一丁目7-5

FAX:018-831-8780

受付時間土日
新患:8:30~10:30
再来:8:30~11:30
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