2026/01/09
人と地域を
もっと健康に
誰かを守る
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
職務上、他院の院長と交流する機会がよくあります。会議が終わった後での親睦会。気付けば、年配の院長がビールをついで回っています。「いつも大変お世話になっております!」。勿論、これは社交辞令。おおげさにいうと、自分の病院を守るために、そう言っているのでしょう。
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昨年、『国宝』という映画が流行りました。役者魂が伝わってくる、すばらしい映画でした。映画で一番大事なのはシナリオです。次に大事なのが役者の演技。野球に直すと、シナリオがピッチャーなら、演技が打者です。『国宝』は、四番打者の吉沢亮さんと三番打者の横浜流星さんによって打ち勝った作品と言えるでしょう。
実は昨年、もう一つすばらしい映画がありました。『ナイトフラワー』です。主人公が北川景子さん、準主人公が森田望智(みさと)さん。この映画も演技で打ち勝った作品です。北川さんも良かったのですが、森田さんの演技がずば抜けて優れていました。こんなすごい役者を観たのは、いつ以来でしょう?ちょっと思い出すことができません。
ネタばれになりますが、『ナイトフラワー』のあらすじを少しご紹介しておきます。
主人公の夏希(北川景子)は2児の母親です。借金取りから逃れて、大阪から東京にやってきました。昼は工場、夜はスナックで働く夏希。生活は苦しく、違法薬物の売人を始めてしまいます。一方、準主人公の多摩恵(森田望智)は総合格闘技に命をかけていました。そんな二人がくっつきます。多摩恵が夏希のボディーガードを買って出たからです。次第に二人は距離を縮め、夏希の子どもを含めて、4人は疑似家族のようになっていきます。
私は初め、森田さんの演技を観て、元々格闘技をやっていた人かなと思いました。しかし、調べてみるとそういった経験はないようです。役作りのため7㎏体重を上げ、練習を重ねて演技に臨んだとのことでした。三國連太郎さんが若い頃、老人の役を演じるため歯を抜いたり、ロバート・デ・ニーロがアル・カポネの役をこなすため10㎏以上体重を増やしたことは有名です。しかし、女優さんが役作りのために7㎏も体重を増やしたというのは聞いたことがありません。
『ナイトフラワー』を観ていて、伝わってくるのは、「生きている感覚」です。夏希や多摩恵は必死に生きています。それが観客の胸を打ちます。
もう一つ心を打たれるのは、二人が大切な人を守ろうとしている点です。夏希は子どもを守ろうとし、多摩恵はその夏希を守ろうとします。世の中、自分の利益のために他人を庇うケースはめずらしくありません。サボり症の人間が同類を庇うようなケースです。その点、夏希たちは違います。純粋に守りたいものを守っているのです。
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ただ、少し考えてみると、多くの大人たちは、夏希たちと同じようなことをしているのではないでしょうか。大人が“外面(そとづら)”を良くするのは、内側(家族や会社等)を守るためです。宴会でビールをついで回るのも、ママ友がお喋りを続けるのも、結局のところ、そういったことなのです。
最後にもう一つ付け加えさせてください。
映画の主人公、夏希のように闇社会に足を踏み入れると、いつか捕まってしまいます。すると、子どもを守れなくなってしまいます。そこから言えるのは、守る側も健全でいることが大事だということです。精神科の場合、子どもが病気になったことで、精神的に苦しむ親御さんをよく見かけます。気持ちは分かりますが、親御さんには、どうかご自身の健康を大事にして頂きたい ——『ナイトフラワー』を観ながら、そんなことを考えていた次第です。
令和8年1月9日
院長 松本康宏