2026/03/13
人と地域を
もっと健康に
薬との付き合い方
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、精神科の薬の話をしようと思います。ちょっと偉そうなタイトルですが、<10の心得>というものを作ってみました。薬の情報はネット上に載っているため、タイトルにそって、主に薬との「付き合い方」について述べたいと思います。
<心得1> 過剰に薬を怖がらない
薬を怖がり過ぎると、効果を十分に引き出すことができません。精神科の薬というと怖いイメージがあるのか、(特に他科の先生が)似たような薬をちょっとずつ処方しているのを見かけます。例えば、少量の抗うつ薬が3種類も4種類も出ていたりするのです。しかし、抗うつ薬は、(副作用が問題にならない範囲で)十分な量まで増やしていくのが一般的。また、患者さんが抗精神病薬を怖がり過ぎて、十分量投与できないこともあります。そうなると、患者さん自身、つらい状況が続いてしまいます。
薬を使う上では、必要最小量の「必要」という部分をまずは押さえておくべきでしょう。
<心得2> 「効果」のことばかり考えない
医者は一見ドライに見えても、本来「病気を治したくて仕方がない人種」です。だから、症状を聞くと、すぐに薬を出したくなります。しかし、薬に副作用はつきもの。それ故、治すこと(効果)ばかり考えるのではなく、副作用のことを考えておかなければなりません。攻撃も大事ですが、守備も大事だということです。
<心得3> 薬を飲み過ぎない
高齢化と医療の専門化に伴って、複数の科から薬をもらっている人が増えています。合わせると、10種類を超えている人も珍しくありません。こういった「多剤処方」の問題は、医者も患者も行政も、みんなで取り組むべき課題だと思います。
<心得4> 生活を守る
精神科医は外来で「患者さんの生活が壊れないように…、壊れないように…」そう思って関わっています。薬の使用に関しても、症状だけをみて考えるのではなく、患者さんの「生活」を診て考えるべきでしょう。
<心得5> 精神疾患だけが病気ではない
精神的には良くなったけど、体の病気が悪化して危機に瀕したというのでは困ります。精神疾患を有すると生活習慣病のリスクが高まると言われていますし、統合失調症を抱えた人の平均寿命は抱えていない人と比べて15年くらい短いとした外国の報告もあります。精神科の薬とはいえ、体のことも考えて選択すべきでしょう。
<心得6> 薬物療法以前に重要なことがある
まずは、生活を整えることが大事です。生活リズムの乱れを薬だけで整えるのは不可能。また体調不良からくる不快な気分を抗うつ薬で治すことはできません。飲酒をすれば、薬が効かなくなったり、逆に効きすぎてしまうことがあります。喫煙をすると血中濃度が大幅に下がる薬も存在します(オランザピンであれば最大50%程度)。こういったことから、薬に頼る前に、生活を整えることが大事です。
<心得7> 治療は薬物療法だけではない
精神科医は、一日に何十人も患者さんをみます。だから関わり方が、「薬を変えておしまい」といったことになりがちです。しかし、薬物療法よりカウンセリングが向いている人もいれば、デイケアや訪問看護が気持ちの安定に寄与する人もいます。それ故、その人にとって一番ふさわしい治療方法と治療の「組み合わせ(コンビネーション)」を考えておくことが大事です。
<心得8> 薬に詳しくても診たてが間違っていたら意味がない
前回のブログ(『それはどんな“うつ”なのか』)で言いたかったのが、まさにこのことです。一言で“うつ”といっても色んなタイプがあります。積極的に薬を使った方がいい人とそうでない人がいるし、タイプによっては使用する薬も違ってきます。言うまでもないことですが、薬を適切に使うには、的確な診たてが必要です。
<心得9> 脳を守る
これは、先輩が話していた言葉です。聞いた時、「そういう発想で薬を出しているのか」と感銘を受けました。「脳を守る!」という意識で薬を使っていれば、おのずと処方は「必要最小量」になるでしょう。
<心得10> 病気イコール自分ではない
これは何度も強調しておきたいことです。精神科の勉強をしていると、いつのまにか統合失調症イコール自分、うつ病イコール人生、といった気分になってきます。しかし、そんなことはありません。あくまで病気はその人の一部です。だからどんな人も、病気とは別に、自分の人生を楽しんでいただきたいと思います。
令和8年3月13日
院長 松本康宏
追記:『新・当事者の声を聴く会』が明日開催されます。場所は「にぎわい交流館AU」、開始時刻は14:20です。多くの方のご参加を期待しております。