2021/01/04

つながりの起源

 皆様、明けましておめでとうございます。
本年も引き続き、秋田回生会病院をご愛顧いただきますようお願い申し上げます。

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 昨年は大変な年でした。しかし、キラリと光るものもありました。大ヒット映画、『鬼滅の刃 無限列車編』もその一つです。

 私も子どもと観に行きました。原作やテレビを観ていなかったため、全て内容を把握できたかは疑問です。しかし、感情は大いに揺さぶられました。

 ストーリーは人と鬼との戦い。今回は、リーダー格(柱)である煉獄さんと最強の鬼(上弦の参)との戦いです。

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 ここで煉獄(れんごく)さんという人物について触れておきます。彼は「煉獄家の教え」に従い修行を積んできました。

 「世の中には強く生まれてきた者と、そうでない者がいる」「ではなぜ強く生まれてきたかというと、それは弱い者を守るため」というのが「煉獄家の教え」。言い換えれば、「健康や知性に恵まれた人間は、その能力を人のために使ってこそ意味がある」とした思想です。

 このアニメは大正時代を舞台にしています。そのため、煉獄さんが、母からそうした考えを叩き込まれても不思議ではありません。しかし、今は時代が異なります。「宿題やった?」とか「みんなと仲良くするのよ」と言う親はいても、煉獄さんの母親のような人は見かけません。にもかかわらず、多くの人が「煉獄家の教え」に感銘するのはなぜでしょう。

 それはコロナの医療を例に取れば明らかです。「できれば避けたい」「自分の生活が大事」、誰もがそう考えます。しかし、そうはいっても対応してくれる人がいるからこそ、社会は成り立っているのです。

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 『鬼滅の刃』は、朝日新聞の社説でも取り上げられました(昨年12月30日)。テーマは「はかなさを力に変えて、前に進みたい」。文中には、東大名誉教授の考察も引用されています。日本の精神史を研究してきた竹内整一氏によるものです。(以下引用)

 <はかなく弱い存在だからこそ、人間は思いを強く持ち、信頼し合い、ともに立ち上がることができると訴えている。それがコロナ下に生きる人たちの切ない共感を呼び、静かに力づけているのではないか・・・>

 確かにこれは、原作が人気を博している理由を言い当てています。しかし、今回、この映画がヒットした理由は、「親子の結びつき」と「煉獄家の教え」にある、というのが私の見解です。

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 精神科の領域で「対象」とは重要な人や物のことを指します。また、その対象が心の中に取り込まれることを「内在化」と言います。煉獄さんの心の中には、亡くなった母親が見事に「内在化」されています。すなわち離れていても心の中でつながっているのです。

 なお、「煉獄家の教え」が親子の結びつきを強めていることも見逃せません。鬼との死闘を繰り広げ、力尽きた煉獄さんの言葉が泣かせます。「母上、私はあなたが求めるような生き方ができたでしょうか・・・」。

 個人の時代とはいえ、多くの人が社会(人)とつながりたいと考えています。その起源は親とつながりたい気持ちです。だからこそ、多くの人が煉獄さんと母親との関係を見て、感動を覚えたのでしょう。私にはそう思えました。

令和3年1月4日
院長 松本康宏