2023/02/13

依存症からの回復

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 当院では様々な依存症プログラムを行っております。『女性のおはなし会』もその一つ。私はそこで毎回ちょっとだけ話題提供をしています。今月は「生きづらさ」と「自己愛の傷つき」を話題にする予定。今回はその内容をご紹介します。

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 世の中には自傷、摂食障害、依存症、不登校・引きこもり、DVや虐待、解離、こういった症状で困っている人がたくさんいます。そのため援助者はそれぞれ特有の対処法を勉強しなければなりません。摂食障害であれば行動療法、アルコール依存であれば離脱への対応といったものです。でも一番大事なのは、その根底にある「生きづらさ」や「自己愛の傷つき」を理解することです。

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 まずは、「生きづらさ」について

 現在、依存症治療の領域で「自己治療仮説」が支持されています。これはカンツィアンという人が30年以上前に提唱したものです。簡単にいうと、依存症になる人というのは、「生きづらさ」を抱えている、それを癒すために、まるで自分で自分を治療するかのごとく、依存物質を用いたり、依存行動を起こす・・・これが自己治療仮説です。

 自己治療仮説を支持する人は依存症を「孤立の病」と捉えます。そのため温かい対人関係を通して、「生きづらさ」を軽減しようと努めます。それが回復につながると考えるわけです。

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 次に「自己愛の傷つき」について

 尊敬する先輩に教えてもらいながら、「手首自傷(リストカットシンドローム)」に関する論文を書いたことがあります。20年ほど前のことです。当時は『OD(大量服薬)』や『リスカ(繰り返されるリストカッティング)』といった言葉がはやり始めた頃でした。そのため社会現象としての『リスカ』をどう捉えるか、世間の関心が集まっていたのです。そこで私は『リスカ』を<自己愛の傷つきを回復させるための刹那的行為>と捉え、その病理を記すとともに増えてきた要因についても考察を加えました。

 このような視点からは、「この人は何を失って傷ついたのか」「その大切なものとは何だったのか」、そういった思索が可能です。これは、「生きづらさ」といった言葉からは派生しづらいものでしょう。失ったものは、自分が描いていた「理想の自分」だったのかもしれませんし、日々の生活(ささやかな幸せ)、健康、いきがい、居場所、大切な人・・・そういったものだったのかもしれません。

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 最後に「回復」について

 ここまで書いてくると、もうお気づきかと思います。酒を飲まなくなったとか、手首を切らなくなったとか、そういったことが本当の回復ではありません。温かい対人交流を通して「自己愛の傷つき」を修復し、「生きづらさ」を軽減する。それが真の「回復」です。

 とはいえこのような関係をどこにでも求めるのは困難です。職場は基本そういった場所ではありませんし、家族とて自分のことで精一杯の人が多いはず。だからこそ、『女性のおはなし会』のような場所が必要なのだと思います。

令和5年2月13日
院長 松本康宏

 追伸:3月18日『第4回当事者の会』を開催します。ぜひ皆様ご参加下さい。詳しくは当院医療相談室まで。