みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は前回のブログの続きです。前回は『にも』のご紹介をしました。今回は会のテーマであった<統合失調症>についてお話しします。
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統合失調症の経過を仮に①前駆期②急性期③消耗回復期④慢性期に分けたとしましょう。個人差はありますが、以前は②が3カ月、③が6カ月と想定されました。するとその間病院で過ごすとすれば9カ月かかることになります。といったことから、幻覚妄想状態で興奮を伴って入院してくると「半年から一年かかる」。そう考えていた時期もあります。
では現在はどうかというともっと早く退院します。当院の急性期病棟も2カ月くらいで退院する人がほとんどです。それは「入院してじっくり治そう」というより「自宅で過ごせるようになれば、後は外来で」といった考え方に変わったからです。他にも治療介入が早くなったことや薬の使い方が変わったこと、退院後の居場所が増えたことなどが入院期間の短縮に影響していると思われます。
もう一つ<急性期>に関して特記すべき点をあげるとすれば、それは鎮静のかけ方です。現在は拘束を行う際、マグネット式の拘束帯を用います。しかし以前は柔道の帯のようなもので行っていました。帯で拘束をすると可動域がありません。大変苦しいし、身体合併症の危険性も高まります。そのため拘束を行ったとしても極めて短い期間でした。ではその代わりにどうしていたかというと、薬で鎮静をかけていたのです。鎮静は強すぎると、食事が摂れなくなったり、腸閉塞を起こしたりします。だから鎮静をかける際の「さじ加減」が重要だったのです。
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急性期が過ぎると、今度は③の消耗回復期に移行します。中井久夫先生はこの時期を「マユにつつまれたようにぼんやりする(「繭の時期」)」と表現されていました。この言葉からイメージされるとおり、関わりとしては次の2つが重要になります。それは「保護すること」と「待つこと」です。
なおこの時期は“そうっ”と薬を減らす時期でもありました。消耗回復期は急性期ほど薬を要しません。しかも上に述べたような理由で当時はたくさん薬を使用していました。だから症状が再燃しないよう注意しながら、ゆっくりと薬を減らしていったのです。
消耗回復期に関しては、次のこともお伝えしておきたいと思います。
統合失調症の症状は、全てが同時に良くなるわけではありません。改善していくスピードが異なります。まず幻覚妄想が減って、その後、思路がまとまっていき、最後に意欲が湧いてきます。幻覚妄想が減って落ち着いてくる時期を急性期とすると、消耗回復期は「思路がまとまってくる時期」です。
思路のまとまりは、興奮のおさまりと違って、簡単に把握することができません。そのため「本当に回復しているのだろうか」と周囲は不安になりがちです。そんなとき(これも中井先生が作ったものですが)風景構成法を用いてみるのも有効でした。描かれた風景の構成から、思路のまとまり(回復度合い)を推測できたのです。
思路がまとまってくると、今度は気力が湧いてきます。これも中井先生の言葉を借りると、「心のうぶ毛」が生えてきたことになります。具体的には、テレビを観ても疲れにくくなったり、レクリエーションを楽しめたりするようになります。こういった変化に気付いてあげて、それを伝えてあげると、患者さんの自信につながります。「たしかに前よりできることが増えている」「ということは回復しているのかな」、そう思えるのです。
こうやって繭のように大切に保護しながら、「心のうぶ毛」が生えてくるのを待つのが<消耗回復期>のやり方でした(次回に続く)。
令和4年12月15日
院長 松本康宏