2022/04/26

気持ちの受け渡し

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 先日、『とんび』という映画を観ました。感情が揺さぶられて、観た後、かなり疲れました。とはいえ、嫌な疲れではありません。その証拠に、1週間後、また観に行った次第です。

 この映画は、父子の物語です。主人公は、父親のヤス。子ども(アキラ)が生まれて喜んでいたのもつかのま、妻を事故で亡くします。そのため、ヤスがアキラを育てます。ヤスは粗野で不器用。でもヤスには味方がいました。地元の人たちです。彼らが子育てを手伝ってくれます。そのせいか、アキラは父親思いの素直な青年に育ちました。高校生になったアキラ。いよいよ巣立ちの時がやってきます。東京の大学に受かり、備後(びんご)から、離れることになりました。アキラの成長が嬉しい反面、別れるのがつらいヤス。そんなヤスの気持ちを汲むアキラ。親子の気持ちが伝わってきて、観ている方も泣けてきます。

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 私は映画好きです。若い頃、『チャンプ』(1979)という映画を何度も観ました。好きな映画トップ10に入る作品です。こちらも父と息子の物語。

 あらすじはこうです。かつてボクシングのチャンピオンだった父親(ジョン・ヴォイト)。引退して7年が経ちます。子どもが赤ん坊の時に、妻が出て行ったため、その後は一人で息子を育てています。父は息子がかわいくて仕方がありません。息子も父親のことを“チャンプ、チャンプ”と呼んで慕っています。しかし、父の生活は荒れていました。酔いつぶれては、息子に介抱をしてもらい、息子の貯金箱から金をせしめては、その金でギャンブルに出かけてしまう・・・そういった毎日です。

 『チャンプ』の場合、『とんび』と違って、母親が生きています。母が家を出てから7年。偶然、母と息子は再会します。母は初め、自分が生みの親であることを隠しています。しかし、会ってしまった以上、子どものことが頭から離れません。母は元夫(息子の父親)に、「息子を引き取りたい」と頼みます。

 母は、ファッションの世界で成功を収め、今やかなりのお金持ち。一方、父親は、ギャンブルで作った借金を元妻(息子の母)に借りに行く有様。父は、自分のふがいなさから気持ちが揺らぎ始めます。「息子は俺より母親と暮らした方がよいのかもしれない」「自分が息子に伝えられるものがあるとすれば、それは何か」。そう考えた父親は、再びリングに上がることを決意します。

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 父親の役割というと、かつては次のように言われていました。

 母親が安心して子どもを育てられるよう、母をサポートするのが父の役割。子どもにやる気を供給するのが母親なら、父親の役割は人生の生き方(目標)を提示すること。なお息子にとって父親とは、「ライバルでもあり、いずれ超えようとする存在」。

 今は父と母の区分をするのが難しい時代になっています。それでも、息子に果たす父の役割がなくなったわけではありません。

 『とんび』や『チャンプ』に出てくる父親は、完璧からは程遠い人物でした。ただ、懸命に生きたことで、息子にドラマを見せることができました。「一生懸命生きたけど、人生なかなか手ごわかった」というドラマです。これが息子に響きます。「よし、次は自分の番だ」「父ちゃんはできなかったかもしれないけど、今度は、俺が頑張る(幸せになる)」。こういった「気持ちの受け渡し」も、父が息子に果たす役割の一つなのでしょう。

 もうすぐ連休です。お時間があれば、『とんび』や『チャンプ』をご覧になってみて下さい。

令和4年4月26日
院長 松本康宏