2022/10/13

記憶

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 今回のテーマは、「記憶」です。

 記憶に関しては、私が勉強していないだけかもしれませんが、まだまだ科学的に解明されていないと思います。しかし、経験則として、次の3つはいえそうです。一つは、記憶は強化されるということ、そして二つ目は、記憶は変形するということ、さらに三番目として、記憶は失われるということです。

 では、それらについて一つ一つみていきます。

 まず一つ目。記憶は「強化」される。

 私は、秋田大学を受験したときのことを今でも鮮明に覚えています。他にも受けた学校はありますが、そちらの方はほとんど覚えていません。それはいったいどうしてなのか。

 おそらくそれは、当時のことを何度も思い出すからです。秋田に来たことで、「あの時、このホテルに泊まったな」とか、「あの時、この道を通って会場に行ったな」といったことが想起されます。それが記憶の「強化」につながっているのでしょう。

 二つのめの特徴。記憶は「変形」する。

 私には小学生の頃から付き合っている友人がいます。何年か前、東京で落ち合い、昔話に花を咲かせました。焼き鳥を食べながら、「あのとき、お前がああ言った」「俺がこうした」という話で盛り上がります。しかし、かなりの部分、互いの記憶は食い違っていました。時間に逆らって、記憶を保持するのは簡単なことではなさそうです。

 記憶の想起は、タンスから服を取り出す行為と似ています。服は着る前と着た後で微妙に形が変わります。記憶も同じ。出し入れを繰り返すことで、少しずつ形が変わっていきます。

 では、何が記憶を変えるのかというと、それは現在の状況(気持ち)です。現在、うまくいっていると、たいてい過去もよく見えてきます。逆に、最高の出会いだったものが、年月を経て、「あれは災難だった」と語られることもよくある話です。

 記憶の変形は、治療にも用いられます。「ひどいことをいわれた」と被害的になっている患者さんに、「あなたのことを心配して、言ってくれたんじゃないの」と伝えることはよくあります。

 最後に、「記憶は失われる」という点について。

 『ドラえもん』の最終回の一つが、「記憶」にまつわるものです。ある日、“ドラえもん”が動かなくなります。元に戻すには、電池を交換しなければなりません。“のび太”は、一刻も早く、電池を取り換えようとします。しかし、そこで問題が生じます。電池を新しくすると、“ドラえもん”の記憶がすべて失われてしまうのです。それを知って、愕然とする“のび太”。記憶(思い出)を失うことが、いかにつらいことか、よく分かる話です。

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 記憶は強化され、変形し、そして最後は、失われます。

 それはまるで人生のようです。そう考えると淋しくもなりますが、だからこそ今を大事にして、良い記憶(思い出)を作るしかないのでしょう。

令和4年10月13日
院長 松本康宏

追伸:10月29日13時半より、ユックリン主催の『健康公開講座』が開かれます。その際、当院も<精神科病院の新しい取り組み>についてお話しします。場所は県社会福祉会館3階。みなさま、ぜひ、お越しください。