みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
先日、出井伸之(いでいのぶゆき)さんが亡くなられました。享年84歳。残念でなりません。出井さんはかつてソニーの社長を勤められた方です。テレビに出たり、本を書いたりもされていたため、ご存知の方も多いかと思います。
私は院長になってから、病院の「構想を練る」という仕事が加わりました。とはいえ、どのようにすればいいのか、なかなか見当がつかずにいました。そんな時に出合ったのが、出井伸之さんの『変わり続ける』(ダイアモンド社)という本です。
出井さんは、本のなかで、こんなことを言っていました。時間には3つある。「仕事の時間」「家族と過ごす時間」「一人で過ごす時間」。なかでも「一人で過ごす時間」を確保することが大事。そしてその時間を「第三の時間」と名付けて、こうも述べていました。
<この時間は意識してつくろうとしないとつくれない。忙しい中、そういった時間を確保し、これからについて、“ぼんやり”と考え続けてきたと>
ここで重要なのは、必死に考えるのではなく、“ぼんやり”考えるということです。
DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)という神経回路があります。これは、集中している時ではなく、集中していない時、つまり、“ぼんやり”しているときに働く回路。これまで脳の活動というと、集中している時の働きばかり取り上げられてきました。しかし、脳は集中している時より、ぼんやりしている時(非集中時)の方がエネルギーを消費しているのです。
なおこの事象に関しては、二つの真逆な解釈が存在します。一つは、「ぼんやりしているときに、脳は重要な働きをしている」とした解釈。そしてもう一つは、「ぼんやりしているときに、脳は無駄なエネルギーを消費している」とした解釈です。
そこで私は、次のように考えました。一言でDMNといっても、「ポジティブな回路」と「ネガティブな回路」があるのではないか。具体的にいうと、「あんなことをしてみたい、こんなことをしてみよう」と考えている時に働いているのが「ポジティブな回路」。「嫌なことを思い返したり、先のことを心配したり」している際に働いているのが「ネガティブな回路」。
ではどのようにすれば、ポジティブな回路を起動できるのか。出井さんの発言をもう一度思い浮かべてみます。<忙しい中、第三の時間を確保するのが大事>つまり、退屈だとうまくいかないのです。あまりにも時間があると、どうしても「ネガティブな回路」が働いてしまいます。だから、普段、時間を持て余している人は、日課を入れて、退屈な時間を減らさないといけません。そうした上で、“ぼんやり”と空想に耽ります。想像する内容は、ちょっとした「プラン」から。「こんどの休日、何をしようかな」といったことから始めて、色んなことを考えていきます。
なおこの方法は、思考がネガティブになりやすい人や依存症の方など、どんな人にも役立ちます(ただし、疲れ切っている場合は最初に休息をして下さい)。
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「ポジティブに構想して、人生を豊かにして欲しい」。これが出井さんの願いです。
令和4年6月17日
院長 松本康宏
追伸:7月31日に『当事者の声を聴く会』(第2回)を開催いたします。ぜひ、ご期待下さい。詳細は後ほどホームページにてお知らせいたします。