2022/09/29

はたらく前に

 すっかり秋になりました。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 今回は、『就労』に関する話をしてみようと思います。

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 今月、就労支援の一環として、『はたらく前に』という講座を開きました。これは、1クール6回で構成されており、現在進行中です。

 私も一回目の導入部分で、話題提供をいたしました。その際、参考にしたのが、養老孟司さんの「仕事論」です。

 養老さんは、元は解剖学者。『バカの壁』が売れて有名になりました。だから、学者でもあり、作家でもあるのですが、私は養老さんのことを一流の「思想家」だと思っています。

 養老さんは、仕事についてこう述べます。<仕事とは、道に穴があいていたらそれを埋めるような行為だ>と。これは言い得て妙です。どの仕事が自分に向いているかなんて考える必要はない、自分に向いている穴なんてあるはずないじゃないか、というのが養老さんの主張です。

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 「穴を埋めるのが仕事」と聞くと簡単そうに思えますが、実はそうではありません。その表現には仕事の「難しさ」も含まれています。

 難しさの一つは<穴があいていないところに土をもってはいけない>という点です。例えば、余計なモノを作って借金を残すとか、干渉しすぎて相手をダメにするとか、こういったことは、養老さんの定義によると「仕事」には入りません。

 もう一つの難しさは<穴があいていたら、ちゃんと埋めないといけない>ということです。最近は、不作為の行為というか、道に穴があいていても(やらないといけないことがあっても)、見て見ぬふりをする人が増えているように感じます。おそらく「下手なことをして後で文句をいわれても困る」という思いからきているのでしょう。

以上の2つを思い浮かべると、案外「仕事」とは難しいことが分かります。

 実際、働いてみると「余計なことをするな」といわれたり、逆に「それじゃ、足りない」と文句をいわれたりします。「じゃあ、どうすればいいんだ」と思いますが、そこは「仕事とは、そんなもんだ」と割り切っておくしかありません。

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 さてここからは、仕事の「良い面」についてみていきます。

 たとえば精神科の領域ですと、①生活リズムが整う、とか ②自己肯定感が高まるといった点があげられます。

 脳というのは不思議なもので、用事があれば、目が覚めやすくなります。逆に日中することがなければ、次第に起きる時刻が遅くなり、リズムが乱れてしまいます。そうなると脳はうまく働きません。結果、体調が悪化したり、意欲が持ち上がらなかったりします。こういったことを防ぐのに役立つのが日中の労働です。

 次に②の自己肯定感についてですが、ここでは、自尊心と同じものと考えて下さい。私は自尊心には2つあると思います。一つが「内側の自尊心」、そしてもう一つが「外側の自尊心」です。

 内側の自尊心は、生まれてから今日(こんにち)に至るまで、人との関りや体験を通して培ってきたもの。補足すると、心の中で自分を勇気づけてくれるものです。一方、外側の自尊心とは、所属感(ポジション)から得られる自分の価値観のようなもの。

 仕事をすると、この「外側の自尊心」が満たされます。だから、これまで仕事をしていなかった人が職を持つとイキイキとしてきます。これも就労の特筆すべき「良い点」です。

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 以上、簡単ではありますが、仕事の「難しさ」と「良い点」についてみてきました。

 仕事に関しては、「いいことも悪いこともある」「でもちょっといいことの方が多いかな」。その程度に考えておく方がうまくいくように思います。

 就労支援講座の『はたらく前に』も、ぜひご活用ください。

令和4年9月29日
院長 松本康宏