2024/02/07
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岡山への旅-その5
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は『岡山への旅-その5』、最終回です。
「商売は育った場所ではなく、隣町でやりなさい」。これは邱永漢(きゅうえいかん)さんの言葉です。隣町に行けば、自分が育った町と比較して、何が足りていて何が足りていないのかが分かります。これが商売の基本だというわけです。
邱さんは、かつて「お金の神様」といわれました。私は若い頃、彼の本をよく読んでいました。お金に関心があったわけではありません。邱さんの語る「人生哲学」が面白かったのです。
邱さんは、台湾の出身。青年の頃、母国は日本の統治下にありました。邱さんは東京に出て東大に進学します。戦後は母国に戻りますが、こんどは日本の帝国主義に加担したと見なされ弾圧を受けます。そこで香港に拠点を移し、幅広く活動を展開しました。
日中双方の文化に長けていた邱さん。自著の中でよく両国の違いを述べていました。例えば、お箸について。日本の箸は中国と比べると短くできています。これは中国と違って大勢で円卓を囲む機会が少ないから。また箸の先が尖がっているのは、魚をよく食べるから(小骨を取らないといけない)、というのが邱さんの見立てでした。茶碗の文化も日中で異なるようです。中国だと男女で茶碗の大きさは同じ。一方、日本だと、たいていの夫婦が大きさを変えています。
こういった話を聞くと、他の国と比較をすることで初めて、日本の「特徴」が浮かび上がってくることが分かります。
私は岡山の紹介も同じだと思いました。岡山の特徴を知ってもらうためには、比較対象が必要です。そこで、<その2>では岡山城と広島城を並べ、<その3>では宇喜多秀家と福島正則を対比させ、<その4>では備前の隣に位置する備中や備後の国を取り上げました。
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最後に、「旅の目的」について考えて終わります。
私は高校時代、岡山で寮生活をしていました。実家のある阪神地方から岡山に行くため、大阪から姫路行きの列車に乗りこみます。すると神戸を過ぎたあたりで急に町の雰囲気が変わるような気がしました。昔の国名でいうと摂津と播磨の境界あたりです。それは不思議な体験でした。まして岡山ともなるとちょっとした別世界に見えました。40年前は僅かながらも昔の国(摂津・播磨・備前)の名残のようなものを感じることができたのです。
寮では夜遅くまで友人と話し込みました。話のなかには「お国自慢」も出てきます。誰しも自分の郷土を愛しく思っていることを知りました。なお勇んで家を出たものの寮での生活は結構つらいものでした。そこで初めて、これまで育ててもらってきた環境のありがたさが分かりました。
旅の目的は人ぞれぞれです。別に何が正しいとか何が間違っているといったわけではありません。ただ究極的にいえば、これまで「自分が培ってきたもの」に気付くことではないでしょうか。
旅に出ると、これまでとは違う体験をします。そうすることで改めて、自分の郷里の良さや自分が培ってきた価値観、育ててもらった人々への感謝に気付きます。
そういう意味では、私の高校生活も『岡山への旅』だったのかもしれません(終)。
令和6年2月7日
院長 松本康宏