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2024/02/14

自殺予防ーその1

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

 今回は「自殺予防」がテーマです。

 

 昨年、「ゲートキーパー養成講座」の1コマを担当させて頂きました。ここでいうゲートキーパーとは「自殺を防ぐ人」のこと。別名、“命の門番”ともいわれます。

 

 ではゲートキーパーには何が求められているのか。それは「自殺のサインに気づき、適切に対応すること」です。そこで第1回は、自殺のサインに気づく「センス」についてお話しします。

 

 私は児童相談所の嘱託医をしていたことがあります。そのため児童虐待を比較材料に、自殺の問題を考えました。自殺対策と虐待対策は共通した部分があります。しかし完全に同じというわけではありません。

 

 児童虐待の場合、最悪のケースを防ごうとするには「リスクアセスメント」が重要です。この際、リスクとして重要なのが、離婚歴・生活困窮・精神科通院歴、この3つ。これらは言い換えると、一人で育児をする大変さ、お金がないつらさ、気持ちの余裕のなさを示しています。勿論、こういったリスクを抱えていても誠実に生きている人はたくさんいます。一方、リスクが重なると追い詰められて虐待をしてしまう危険性が高まることも事実です。

 

 では自殺の場合は、どのようなリスクが重要となるのか。私なら、①病気を抱えている ②お金の問題を抱えている ③誰にも相談していない、この3つを選びます。しかし、自殺は極めて幅の広い社会問題。そのため、この3つさえ頭に入れておけばいいというわけではありません。例えば、若者の自殺などは、当てはまらないことが多いように思います。

 

 こういったなか、自殺のサインに気付くにはどうすればよいのでしょう。私はこの問題について考えていた際、たまたま水野学さんの『センスは知識からはじまる』という本を読んでいました。この本は本来、自殺予防とは関係がないものです。ただ水野さんの言わんとすることが、この分野にもあてはまるように思いました。

 

 水野さんはマスコットキャラクター『くまモン』などをヒットさせた人物。世間からは跳びぬけたセンスの持ち主と思われています。その彼が本のなかでこう述べます。

 

 <センスに自信がない人は、自分が、実はいかに情報を集めていないか、自分が持っている客観情報がいかに少ないかを、まず自覚しましょう。いくら瞬時に物事を最適化できる人がいたとしても、その人のセンスは感覚ではなく、膨大な知識の集積なのです。センスとはつまり、研鑽によって誰でも手にできる能力と言えます。決して生まれつきの才能ではないのです。p.95>

 

 私は自殺のサインに気づく「センス」も同じだと思いました。決して生まれ持った感覚ではなく、90%以上、知識だと思います。例えば、うつ状態で焦燥感が伝わってくるようなケースは極めて危ないこと、精神疾患のなかでも双極性障害の自殺率が一番高いこと、自殺未遂を繰り返している人はやはり自殺で亡くなりやすいこと等、知っておくべきことがたくさんあります。だから、「ゲートキーパー養成講座」などで知識を学び、救える命を救って欲しいと思います。

 

 一方、次のことも心に留めておかなければなりません。それは、防ぐことができない自死もあるということです。実際、予期できないこともありますし、死にたい気持ちを把握していても、有効な策が見つからないこともあります。これは自殺予防に関わる上で最初に知っておかなければならない冷厳な事実といえるでしょう。

 

令和6年2月14日

院長 松本康宏

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