2024/02/16
人と地域を
もっと健康に
自殺予防ーその2
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は「自殺予防―その2」。カウンセリングを題材に「居場所」について考えてみたいと思います。
*****
カウンセリングを行うにあたって、いくつか重要な原則があります。その一つが、「枠作り」です。一週間に1回なら1回、決められた日の決められた時間に、セラピストとクライアントが会う約束をし、互いにそれを順守します。
では、枠を作ることが、どのような役割を果たすのでしょうか?一つは、クライアントの「依存」に対応しやすくなります。気持ちに余裕がなくなれば、誰かにしがみつきたくなるのが人間です。そのため枠を作っておかないと受診が頻回になったり、夜間に病院に駆け込んだりして、関係を続けるのが難しくなります。そこで前もって、きちんと会う約束をし、安定した関係を築こうとするのです。
また、枠を作ることで、クライアントがどの程度、約束を守れる人なのかが分かります。パーソナリティに大きな問題を抱えている人はなかなか枠(≒約束)を守ることができません。こういったことから診断に役立つのです。
さらに、次のようなことも判ります。仮にこれまできちんと来ていた人がカウンセリングに遅刻したり、キャンセルをしたとしましょう。そうした場合、その近辺で(あるいは前回の面接で)心理的に重要な出来事が起きたのではないかと推測できるのです。
こういった約束のもと、治療が継続されていきますと、カウンセリングの空間がクライアントにとってちょっとした「居場所」になってきます。ここでいう「居場所」とは物理的な空間であると同時に、「ここにいてもいいと思える」心理的な空間でもあります。
居場所ができると投げやりな気持ちが減り、それと同時に余裕が生まれてきます。その結果、「次のカウンセリングでは何を話そうかな」といったことまで考えるようになります。
ここまでくれば、だいぶ良くなってきたといえるでしょう。なぜなら「このことを話そうかな、それともあのことにしようかな」と考えを巡らす過程で、その人にとって大事なことが判明してくるからです。
以上、カウンセリングの流れから、居場所が果たす役割についてみてきました。
*****
<居場所・生きがい・支え>、これらを失うと自殺のリスクが高まります。そのため、失ってしまった人は、新たにこういったものを作っていかなければなりません。一方、失っていない人は、<居場所・生きがい・支え>といったものを保持していくことが望まれます。
居場所はカウンセリングに限ったものではありません。デイケアや依存症ミーティング、訪問看護も重要な居場所となりえます。
当院はこういった「居場所」を提供していきたいと考えています。
令和6年2月16日
院長 松本康宏