2024/03/29
人と地域を
もっと健康に
豊かな生活
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、「生活」がテーマです。映画『パーフェクトデイズ』を素材に考えてみます(以下、ネタバレあり)。
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この映画はドイツ人によって撮られました。舞台は東京。主人公は役所広司です。主人公、平山は、古びた貸家の一室で一人暮らしをしている初老期の男性。仕事は公園のトイレ掃除です。朝起きると、自宅で育てている小さな植物に水をやり、通勤前には必ず自動販売機でカフェオレを購入。車のなかではカセットから好きな曲を流し、休憩時間には公園で木漏れ日の写真を撮影。そういったルーチンともとれる平山の生活が淡々と描かれます。
ストーリーから察するに、モデルとなった人物がいたのでしょう。ドイツ人の監督は、その人物(日本人)にインスピレーションを受けて撮影に取りかかったのだと思います。
日本人とドイツ人は似ているといわれますが、当然違いもあります。
『ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか』(青春出版社)という本によると、ドイツ人は日本人よりかなり労働時間が短く、そして質素な生活を好むようです。長期休みは取りますが、外食は滅多にせず、服にもお金をかけません。休日はサイクリングをしたり、公園で日光浴をしたりして、自然のなかで過ごすことが多いようです。
「休暇に何を求めるか」という設問に、ドイツ人は①太陽の光と自然(78%)②家族と過ごす時間(67%)③普段住んでいる場所とは違う場所に行けること(66%)④自分のための時間(65%)⑤仕事のストレスがないこと(59%)と答えています。
日本で同じ質問をしたら「太陽の光と自然」が一番目にくることはないでしょう。実際、休日は「ごろ寝」や「ショッピング」をして過ごす人が多いと思われます。
物を大量に消費し、無駄に長い時間働き、自然と触れ合う機会が乏しい日本人。そういった(特に都会の)日本人を見ていて、ドイツ人の監督は違和感を覚えていたのかもしれません。そんなとき「あれ、TOKYOにもちょっと違う人がいるぞ」、「この人物を映画にしてみると面白いかもしれない」、そう考えたのではないでしょうか。
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質素という点では、私も似たような生活をしていたことがあります。三畳一間の部屋から銭湯に通っていたこともありますし、古本屋で入念に本を選んでいたこともあります。その頃はその頃で幸せでした。ただもう一度あの頃に戻れるかというと、それは難しい気がします。たまには旅行に行きたいし、ときには高価な物を食べたい。そういった享楽的な面が私にはあります。
そういう人間にとって、『パーフェクトデイズ』というタイトルは挑発的です。どういう意味で挑発的なのか。それを説明するため、主人公の「生活」をおさらいします。
ボロ家で一人暮らし、他者との交流も乏しいため、一見、不憫に見えます。とはいえ、主人公はやるべき仕事をきちんとこなしています。かつ生活のなかに音楽や本が溶け込んでいます。銭湯では気持ちよさげに汗を流し、育てている植物に水をやることや趣味で撮った写真を保管することを忘れません。加えて、ひいきの場所で酒を飲むこともあります。果たして、この生活をパーフェクトといわずして、何をパーフェクトというのでしょう。
<あなたはこれ以上何を望んでいるのですか?>監督はそう問いかけているような気がするのです。
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享楽的な生活をすべて手放すつもりはありません。ただ、小さな楽しみを噛みしめるような生活も忘れないようにしたいと考えています。
令和6年3月29日
院長 松本康宏
追記:4月7日、『当事者の声を聴く会』があります。ぜひ、みなさまご参加下さい。