2024/05/01
人と地域を
もっと健康に
心の成熟
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
ここのところ映画や歴史の話ばかりしてきました。しかし、ここは病院のホームページです。たまには精神科的なことを取り上げないといけません。そこで今回は「心の成熟」をテーマに書いてみようと思います。
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当院は依存症の治療に力を入れています。依存症は最も多い病気の一つです。アルコール依存症の人だけでも日本に100万人くらいいるとされています。
アルコール依存症の解説をしている際に、いつも恥ずかしくなる箇所があります。最終的な回復について書かれている部分です。そこには「人として成長すること(心の成熟)」が最終的な回復、と書かれているのです。言いたいことは分からなくもありませんが、治療者だって心が成熟しているとはいえません。そこで改めて、今どういう「心の成熟」が求められているのか、そのことについて考えてみようと思いました。
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昔の精神科医は、人の成熟に関して、自体愛から始まり、自己愛、他者愛(対象愛)に進化していくと考えました。しかし最近は、自己愛は持っていてもいい、むしろ必要だと考えられています。そのため、自体愛が未熟な自己愛に移行し、最後に成熟した自己愛になる、というのが現在の考え方です(自体愛→未熟な自己愛→成熟した自己愛)。
では「成熟した自己愛」の持ち主とはどういう人を指すのでしょう。その問いに、私は次のように答えてきました。「相手に頼ることもあれば、自分が頼られることもある。そういった『ギブアンドテイク』のできる人」。しかし、「もっといい表現ができないかなぁ」とも思い続けてきました。
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依存症の人たちを観察していると、次のような「特徴」があることに気付きます。
それは、「好きな『モノ』が少ない」ということです。好きなモノが少ないと、当然、気持ちが満たされません。だから、そういうモノを見つけて増やしていくことが大事です。
ただ、「好きなモノを見つけようにも、それが見つからない」という意見もあるでしょう。それに関しては「とりあえずやってみること」と「周囲の誘いに乗ってみること」を勧めます。釣りに行ってみたら、思いのほか、ハマったとか、先輩に無理やり連れていかれて、スキーや山登りが好きになったという人はたくさんいます。やはり、いい意味での「軽さ」が必要です。
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好きな対象は何でもいいと思います。野球チームや芸能人でもいいし、音楽や映画でも構いません。もちろん、自分の周りの人や、自分の郷土、自分が所属している集団も対象に含まれます。
自分に好きなモノがあって、誰かとそれを共有できれば、さらに楽しさは増すでしょう。
こうやって自分自身の機嫌をうまく保つことができている人。これが、私の考える「成熟した自己愛」の持ち主です。
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書きながら、自分ももっと好きなモノを見つけたい!と思い始めました。皆様も、あまり難しく考えず、好きなモノを増やしていきませんか?きっとそれが「心の成熟」に役立つと思います。
令和6年5月1日
院長 松本康宏