2024/06/05
人と地域を
もっと健康に
エリクソン その1
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、『グラン・トリノ』という映画を題材に、エリクソンの発達論について考えてみたいと思います。
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エリクソンは、「アイデンティティ」や「モラトリアム」といった言葉を流行らせたことで有名な精神分析家です。また、エリクソンの発達理論をどこかで習った人も少なくないでしょう。エリクソンの理論は画期的でした。それは、これまでの発達論が思春期で終わっていたのに対し、思春期後の発達についても言及していたからです。
ちなみにエリクソンは人生を①乳児期②幼児期初期③幼児期後期④学童期⑤青年期⑥成人期⑦壮年期⑧老年期の8つに分け、各ステージにおける心理的課題を提示しています。
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エリクソンの理論は、水面に映った月のようです。つかめそうで、なかなかつかめません。しかも、「誤解」を受けやすいように思います。それは例えば、こんなかんじです。
「思春期はアイデンティティの形成に重要な時期」と書かれた部分だけを読むと、「アイデンティティは思春期に完成する」と勘違いする人が出てきます。しかし、「アイデンティティは生涯を通して形成される」というのがエリクソンの考え方です。
モラトリアムという言葉も、誤解されがちです。「自分は何のために生まれてきたのか」「自分の人生の目的とは何なのか」。そういった悩みを抱き、もがき苦しむ時期が本来のモラトリアムです。それが「猶予期間」と訳されてしまうと、社会に出る前の「のほほんと過ごす時期」、あるいは大人としての「責任を取らなくいい時期」。このように誤解されてしまいます。
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最近私は、思春期より老年期の心理に関心があります。
エリクソンは老年期の心理的課題を「インテグリティ」と述べました。では、インテグリティとはいったい何なのでしょう。「統合」と訳されることもありますが、それでもよく分かりません。「いいことも悪いこともあったけど、これが自分の人生だ」。そういった人生の「総括」がインテグリティなのだと思います。
しかし、この理論も誤解を招きかねないと思います。なぜなら、上のように聞くと、老年期になればそれこそみんな、「人生をまとめなければならない」と考えがちだからです。でも、そんなことはありません。世の中には、心理的な課題なんて考えなくても、力強く生きている人はたくさんいます。
とはいえ、老年期の心理を知る上で、エリクソンの理論は大いに役立ちます。その点について映画『グラン・トリノ』を題材にみていこうと思いましたが、字数がきてしまいました。次回お話ししたいと思います。引き続き、ご愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。
令和6年6月5日
院長 松本康宏