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2024/06/07

エリクソン その2

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

 今回は前回のブログの続きです。

 

 エリクソンは人生を①乳児期②幼児期初期③幼児期後期④学童期⑤青年期⑥成人期⑦壮年期⑧老年期の8つに分け、各ステージにおける心理的課題を提示しました。

 

 ⑥の成人期の課題が親密性です。⑦の壮年期の課題が世代性。最後の⑧老年期の課題がインテグリティです。

 

 インテグリティの説明は簡単ではありません。「統合」と訳されることもありますが、それだけでは意味がよく分かりません。段階的に①から⑧まで進んだ後、最終的に「いいことも悪いこともあったけど、これが自分の人生だ」と思えるようになることがインテグリティです。

 

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 以下、『グラン・トリノ』(監督&主演:クリント・イーストウッド)という映画を題材に、主人公の心理的課題についてみていきます。

 

 主人公はデトロイトに住む白人男性。年の頃は70歳前後です。いい時代に『フォード』で働き、定年を迎えました。しかし、現在の彼は、最愛の妻を亡くし、孤独な一人暮らしです。元々、彼には気難しい面があったのでしょう。子どもたちともうまくいっていません。孫も寄り付かない存在です。

 

 さらに環境の変化が追い打ちをかけました。かつて自動車の街として栄えたデトロイト。それが今や全米一治安の悪い街と言われています。白人一色だったコミュニティも様相を変えました。多くのアジア人や黒人が進出し、隣の家には、モン族(東南アジアの一民族)が越してきています。

 

 愛着を持っていたモノが次々に失われていく主人公。「どうしてこうなっちまったんだ」という苛立ちが態度からにじみ出ています。

 

 そんな主人公ですが、隣家のモン族と知り合いになったことで、気持ちに変化が現れます。それをエリクソンの発達論でみていきましょう。

 

 主人公は妻とはうまくいっていたようです。そのため、⑥の親密性はクリアーしていそうです。しかし、子どもたちとは親密な関係が結べていません。これは⑦の心理的課題(世代性)がクリアーできていないことを意味しています。世代性とは、次の世代に関心を持ち、育てていくことです。具体的には子どもを育てたり、後輩を指導したり、次の世代に自分が培ったノウハウや知恵を伝授していくことです。

 

 主人公は、隣に越してきた少年との関わりをとおして、おくればせながらこの課題に取り組みます。少年との関わりはさながら親子のようです。大工道具の揃え方、床屋の店主とのかけあい、デートの誘い方・・・、かつて息子に教えることができなかったことを今やろうとしているかに見えます。

 

 こうやって⑦の課題をクリアーした主人公ですが、最後に残されたのが、⑧の課題インテグリティです。さて、この主人公はインテグリティを獲得できたのでしょうか。

 

 ネタバレになりますが、それを知るには最後のシーンを記すしかありません。

 

 自分の取った行動のせいで、上記の少年の姉がチンピラたちから暴行を受けます。復讐の連鎖に苦悶する主人公。最後、命をかけた行動に出ます。

 

 チンピラたちのたまり場に現れた主人公。窓から顔を出し、銃で威嚇するチンピラたち。主人公は彼らに向かって、指で銃を撃つしぐさをしました。雰囲気がさらに緊迫します。

 

 主人公が次に取った行動は、ジャケットから銃を取り出すしぐさでした。自分たちが打たれると思ったチンピラたち。慌てて、銃を乱射します。仰向けに倒れる主人公。息を引き取りますが、ジャケットに銃は入っていませんでした。無防備な男を撃ったことで長期の刑が確定します。結果、少年と姉は守られたのでした。

 

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 インテグリティの獲得を、「自分の人生を肯定し、受容すること」と捉えれば、この主人公はインテグリティの獲得に失敗したといえるでしょう。この主人公が自分の人生を肯定しているようには見えないからです。

 

 ただ、インテグリティの獲得を、「真剣に生きた感覚」と捉えれば、この主人公はインテグリティの獲得に成功したともいえるのではないでしょうか。

 

令和6年6月7日

院長 松本康宏

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