2024/07/31
人と地域を
もっと健康に
当事者の会
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
世の中には、話の面白い人がいます。お笑い芸人のような人です。彼らを見ていると3つの特徴があるように思えます。
一つはサービス精神が旺盛なこと。彼らは常に誰かを笑わせたいと考えています。
二つめは観察力が優れていること。“変わったおじさん”や“風変わりな店主”。彼らはいとも簡単にこういった人物を見つけてきます。
三つめは、「メタ認知」が優れていること。この点に関しては説明が必要でしょう。「メタ認知」とは、自分を客観的・俯瞰的にみること、あるいはその能力です。彼らはこの能力に長けています。
同じ話をしても、人と場所によってウケるときとウケないときがあります。男友達の前でウケたネタが女性にもウケるとは限りません。クラスで笑いをとった話題が別の場所では通用しないこともあります。話の面白い人は、あらかじめそういったことを予測して話し方や話題を変えています。これは「メタ認知」が高くないとできません。
精神疾患を抱えた人は、たいてい「メタ認知」が低下しています。病識を失う人もいますし、気持ちに余裕がなくなって、相手のことを考えられなくなる人もいます。また、否認の心理が働いて現状を認められなくなる人も少なくありません。
逆にいうとこのことは、「メタ認知の回復」が精神的な健康を取り戻す上で非常に重要だということです。
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先日、第八回『当事者の声を聴く会』が開催されました。今回のテーマは依存症。4人の当事者からお話を聞くことができました。
依存症はなかなか大変な病気です。簡単にいうと、脳の中にやっかいな神経回路ができた状態。その回路が刺激を受けて一旦活性化すると、アルコール依存症の場合、依存症ではない人の100倍、1000倍といったレベルで飲みたい気持ち(欲求)が湧き起こります。そのため、ともかく刺激(トリガー)を避けることが大事。加えて欲求が生じたときの対処方法を学んでおくことも必要です。
以上は、知っておくべき知識です。でもこれを知ったからといって、「よし頑張ろう!」と思う人はいないでしょう。それより知りたいのは、回復した人あるいは回復に向けて努力している人の「体験談」です。
「克服するためにどんな苦労をしてきたのか」「つらいとき、家族にどんな対応をして欲しかったのか」「治療を始めたころはどんな気持ちだったのか」「飲んでいた時と今とでは、どのように気持ちが変わったのか」、こういった実体験についてみんな知りたいのだと思います。
だから、『当事者の声を聴く会』を開く意味があると考えてきました。
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「依存症という病(やまい)にどう向き合ってきたのか」。今回、4人の演者が、自らの体験を正直に語ってくれました。つらいこともたくさんあったかと思いますが、ユーモアを交えての発表でした。これは「メタ認知」が高くないとできません。私は、目頭が熱くなるのと同時に、回復を感じられて嬉しく思いました。
この会も残すところあと2回です。引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
令和6年7月31日
院長 松本康宏