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2024/08/07

秀吉の晩年

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

 先日、新聞に大きな写真が載っていました。作家今村翔吾氏による講演会の案内です。私は少々驚きました。直前に購入した本が、たまたま彼の新書だったからです(『戦国武将を推理する』)。ユングのシンクロニシティではありませんが、なにか不思議なものを感じました。

 

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 『戦国武将を推理する』という本は、以下の武将に関する人物評で構成されています。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、武田信玄、上杉謙信、伊達政宗、松永久秀、石田三成の8名です。

 

 秀吉の「晩年の心理」について、今村氏は次のように推理していました。

 

 <「よき夢を見するがな(皆に楽しい思いをさせてやろう)」という言葉が口癖とされ、民のためにも尽くした秀吉ですが、民は民で貪欲で、与えられたらさらに欲するようになるものです。知世に対する不満も収まらず、それが秀吉を苛立たせました。晩年の秀吉が苛烈になったのも、「儂(わし)はやることをやっているのに、お前らは・・・」という思いがあったからだと考えています。>

 

 晩年の秀吉に関しては、これまでも様々なことがいわれてきました。「耄碌(もうろく)した」とか「病気になった」とか「子どもを失ったショックが大きかった」とか。しかし、いずれもしっくりきません。それに対し、今村氏の洞察は、素朴ながらも斬新。真理をついているような気がしました。

 

 さらに私は、秀吉がイライラするようになった理由がもう一つあると考えています。今回そのことについてお話しします。

 

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 高名な医師が一般の人から褒められて、たいそう嬉しそうにしていた姿を見たことがあります。意外でした。すでに充分過ぎるほど社会から評価されている人物だったからです。「あれだけ偉い人でも褒められると嬉しいんだ」。改めて、そう思いました。

 

 人間、褒められると、嬉しくなります。そしてやる気が湧いてきます。自己愛が満たされるからです。逆に自己愛が満たされないとイライラしたり、やる気を失ってしまったりします。晩年の秀吉は、こういった「自己愛の問題」を抱えていたのではないでしょうか。

 

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 世の中には一人で物事を楽しめる人がいます。一日中、思索に耽っていたり、何日も山にこもったり・・・。しかし、そういった人はあくまで少数派。大抵の人は、自分の喜びや楽しみを誰かと分かち合いたいと考えています。

 

 秀吉も後者です。喜びや楽しみを周囲と分かち合いたいタイプ。

 

 近江の長浜城。秀吉は初めて一国一城の主(あるじ)になりました。「おまえさん、やったじゃない!」。妻の“ねね”もたいそう喜んでくれたに違いありません。母の“なか”を城内に迎え入れた際には、「こんなに偉くなって、母さんも嬉しいよ」と言われたはずです。戦に勝利するたびに弟の秀長からはこういわれたことでしょう。「兄さん、すごいな。天才じゃないか」。こういった喜びの共有が秀吉の原動力でした。

 

 しかし、天下を取ってからの秀吉は、そういった機会が激減します。検地や刀狩りは政策としては重要でも身内が喜んでくれるようなものではありません。側室(淀殿)に子どもができたことも、本当のところ“ねね”はよく思っていなかったでしょう。出世を共に喜んでくれた母や弟は、天下を取ってまもなく、この世を去ってしまいました。

 

 自己愛が満たされなくなった秀吉は、やるせなさを募らせたはずです。「何をやってもおもしろくない」「誰も喜んでくれない」「いったいどうなってしまったんだ」。

 

 前述した「儂(わし)はやることをやっているのに、お前らは・・・」という思いに加え、自己愛を満たせなくなったことが、秀吉を変えてしまったのではないでしょうか。

 

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 最近、若い人の心理より、歳をとった人の心理に関心があります。今回は、秀吉の晩年の心理について書きました。今後も高齢者の気持ちを探っていこうと思います。引き続き、ご愛読よろしくお願い申し上げます。

 

令和6年8月7日

院長 松本康宏

 

追記:9月から発達障がい者支援プログラム『STEP』を開催する予定です。ご興味のある方は、当院医療相談室にお問い合わせください。

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