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2024/09/18

発達障害ーその2再掲

 《その二》

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。前回に続き、発達障害の話をしていきます。

 

 【発達障害のケース】

 

 <症例A:20代、男性>

 幼い頃より、友達が作れず、いじめに遭うことが多かった。言葉の発達の遅れはなかった。学業は優秀で、高校卒業後、有名大学に進学した。その後、研究者の道を志したが、周囲とうまくいかず実家に戻ってくることとなった。ところが、実家でも両親と口論になることが多く、落ち着かないことから精神科を受診した。本人は自分の状態を〝うつ〟だと述べていたが、会話は流暢で被害的な発言が多く聞かれた。また、不眠やイライラの他に、音過敏も存在した。

 

 さらに親から話を聞いてみると、本人が子ども時代に、①昆虫に異常に詳しく虫博士とあだなされていたこと ②幼稚園時代に先生から「変わった子どもだ」と指摘されたことがあること ③中学時代、通りすがりの女性に「太りすぎですよ」と注意して叱られたことがあること等が語られた。

 

 なお心理検査はWAISとPARSを施行した。

 

*****

 発達障害の患者さんは、その多くが「不適応」を起こして受診されます。つまり、うつ状態や不眠などを呈して受診されるわけです。「発達障害を治して欲しい」と言って来られる方はそれほど多くはありません。上に示したケースも、うつ状態を治して欲しいというのが主訴です。

 

 症状としては、抑うつ感を訴えられていますが、会話が流暢なことから、少なくとも典型的なうつ病とは思えません。

 

 音過敏も診断に重要なポイントです。かつてはこの症状があると統合失調症を疑いました。今は、統合失調症より先に、発達障害を考えます。勿論、その症状がいつから起きてきたのかを確認しておく必要があります。発達障害の場合は幼少期から認められ、統合失調症の場合は青年期以降に起こってくるからです。

 

 発達障害で認めやすい感覚過敏は、「音」に限ったものではありません。匂い、触覚、味覚など、知覚対象は様々。光を怖がったり、触られるのを極端に嫌がったりする子もいます。

 

 なお、専門家の中には感覚過敏を「こだわり」に含める人がいます。確かに両者はつながっており、下着や食べ物へのこだわりは、その多くが感覚過敏からきています。

 

 次に親から得られた情報(①~③)をみていきます。

 

 ①発達障害のケースでは、特に男の子の場合、子どもの頃、「○○博士といわれていた」というエピソードをよく聞きます。このケースでは虫博士といわれていたとのこと。ポケモンや昆虫に詳しい子どもはたくさんいますが、興味を持つ対象がめずらしかったり、異常な程、興味を示していれば、診断の材料となりえます。

 

 ②幼稚園で受けた指摘も診断に役立ちます。保育園や幼稚園の先生は、集団を観察しています。前回のブログで述べたように、自閉スペクトラム症は「社会性の障害」。だから診断には「集団の中でどういうふるまいをしているか」という視点が欠かせません。

 

 ③小学生も高学年になると、言っていいことと悪いことが分かります。上のケースのように、中学生が赤の他人に向かって、その人が言われて嫌がるような発言をしていれば、社会性と想像力の障害が疑われます。

 

 発達障害の診断には、心理検査も有用です。WAIS(知能検査)では、能力のアンバランスをよく認めます。上に記されたPARSは自閉症の特徴がどの程度あるかをみる検査です。点数が高ければ自閉スペクトラム症の可能性が高まります。またいうまでもなく、心理検査の所見は、診断の参考になるだけでなく、アドバイスをする上でも役立ちます。

 

 【発達障害との関わり】

発達障害に関して、今のような内容を耳にするようになったのは20年ほど前からです。ただ当初は、専門家の話を聞いても、さっぱりイメージが湧きませんでした。17~18年前になると、自ら担当するケースに「発達障害」を疑い始めます。しかし、診立てや対応に自信を持てずにいました。そうこうするうち、児童相談所(児相)の仕事が回ってきます。そこでの業務は、発達障害に関する依頼ばかり。私はさらに発達障害を知る必要性に迫られました。

 

 「児童虐待防止法」が制定されたのが2000年。以降、児相は益々この問題に力を注ぎ込むようになります。なお発達障害の子どもは虐待を受けやすいため、虐待を扱うには、発達障害の知識が必須。そういったことで私への依頼は、発達障害に関することが多かったのです。例えば、多動の子どもがいたとします。それが生来のADHDなのか、それとも虐待のせいでADHDのように見えるのか、そういった鑑別が求められました。

 

 しかし、その鑑別は容易ではありません。重複していることもたくさんあります。また仮に被虐待児に発達障害があるとして、それを親にどう告げるのかも難しい問題です。知ったことによって育て方を工夫する親もいれば、虐待を正当化する親もいるからです(続く)。

 

 紙幅の都合で、次回のブログ(9月20日)に続きを載せます。

 

令和2年6月26日(令和6年9月18日再掲)

院長 松本康宏

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