2025/02/12
人と地域を
もっと健康に
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これからの精神医療(後編)
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、前回に続き「これからの精神医療」について語ります。
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「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築。平成29年に国が新しく打ち出した理念です。人呼んで『にも包括』。あくまで私なりの解釈ですが、『にも包括』には2つの柱があると思います。一つは、精神障がい者の長期入院を防ぐこと。もう一つは、支援を受けていない人たちにも手を差し伸べることです。
支援を受けていない人たちとは、依存症や摂食障がい。それから発達障がいや引きこもり。あるいは虐待の被害者や加害者、DVの被害者や加害者、そしてひどく死にたくなっている人たち、こういった人たちがあげられます。彼ら彼女たちは困っているにも関わらず、多くの場合誰ともつながっていません。地域に埋もれたままでいます。そういった人たちにも支援の手を差し伸べようというのが『にも包括』の大きな柱と考えます。なお、こういったケースの多くはグループワークを必要としています。
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『にも包括』の事業内容は13の項目から成ります。そのなかで5番目に掲げられているのが<ピアサポートの活用に係る事業>。私はこの項目を見て、『当事者の声を聴く会』を開こうと思いました。
ピアサポートという言葉は、一般の人には馴染みが薄いかもしれません。ピアサポートとは病気の経験や障害のある人が、同じ境遇にいる人を支援することです。
『当事者の声を聴く会』はおかげ様で今回10回目を迎えました。私がいうのも何ですが、とてもいい会になりました。発表してくださった当事者の方々、会を運営してくれたスタッフ、参加してくださったみなさまに、この場を借りて感謝申し上げます。10回を機会に幕を下ろしますが、もしかするとバージョンアップして新しく始めるかもしれません。
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10年くらい前からでしょうか。「これからは依存症と発達障がい」といった言葉を耳にするようになりました。これは統合失調症や認知症の重要度が下がったという話ではありません。支援を必要としている「依存症」や「発達障がい」の人が世の中にはたくさんいるということです。
そういったなか、私たちも依存症と発達障がいの治療体制を整えてきました。『Sunミーティング』を皮切りに各種依存症プログラムを立ち上げ、令和5年4月には県の依存症治療拠点機関にもなりました。発達障がいに関しては、『思春期外来』・『発達障がい支援プログラムSTEP』・『発達障がい外来』などを新設し、治療にあたっています。
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最後に3つ意見を述べて終わります。
一つは、<グループミーティングの重要性>です。病気や障害のせいで“生きづらさ”を抱えた人たちが、勉強会を開いたり、支え合っていくグループがもっと必要です。そして、こういったグループが雨後の筍のようにあちこちで誕生して欲しいと願います。
二つ目は、<ピアサポーターの活用>です。ピアサポーターの存在は回復途上の人にとって希望となり薬となります。すでにがんの領域ではこういった活動が行われてきました。それが今後精神の領域にも広がっていくと思われます。実際、ピアサポートの研修が県の主催で行われており、受講する人が増えていると聞きます。受講された人のなかには、これから医療機関で働く人もでてくるでしょう。今後、ピアサポートは精神医療にとって不可欠な存在となるにちがいありません。
三番目は、日本人はもっと<自由な生き方>をしてもいいのではないかとした提言です。多くの日本人が、自分の人生はこんなもの、自分の守備範囲はここまでと決めつけてしまっています。しかし、欧米の人は違います。「こういう活動をしたいから、認可しろ!」と自分たちの方から行政を動かします。自分たちの力で「互いに支え合う社会を作っていきませんか」というのが私からの最後の提言です(終)。
令和7年2月12日
院長 松本康宏