2025/08/20
人と地域を
もっと健康に

これからの依存症対策-その3
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は『これからの依存症対策-その3』。前回の話の続きです。
依存症の勉強をしていく上で、まず初めに知っておくべきことを5つ記します。
1つ目は、依存症は「コントロール障害」だということです。具体的にいうと、量・時間・場所といったものがコントロールできなくなります。そのため、「お酒の量をコントロールしなさい!」というのはナンセンス。別の方法を考えないといけません。
2つ目は、依存症は「治療ギャップの大きな疾患である」ということです。依存症のなかで比較的医療機関と結びつきやすいアルコール依存症でさえ、専門的な治療を受けている率は5%くらい。すなわち95%の人が治療を受けていません。
3つ目は、酩酊の仕方をみておく必要があるということです。アルコールの場合、楽しく飲んでいたらいつのまにか依存症になってしまったという人が少なくありません。それを避けるには、酩酊の仕方をみておくことが大事です。若い頃から、酒を飲むと異常に盛り上がりやすい、ブラックアウトしやすい、そういった人は要注意です。なぜかというとそういう人は、飲んでいるうちに自分がどれだけ飲んだか分からなくなる人だからです。すると、毎回飲む量が多くなり、それを続けているうちにいつのまにか依存症になってしまいます。
4つ目は、ルールを守れない場合の対処方法が変わってきたことです。依存症の人は、ルール破りがめずらしくありません。依存物質のことで頭がいっぱいだったり、気持ちがすさんでいたりすることが多いためです。「外出しますと!」といって病院近くのコンビニにでかけ、酒を飲んで帰ってきたり、病室内でたばこを吸ったり……。以前は、そういったことが繰り返されると、「当院ではもう診ることができません」といったかんじで関係が破綻していました。
そこで最近は次のように変わってきています。「ルールを守れないと2か月間は診ることができません」「ただし、2か月たったらまた電話してきてもいいですよ(また、治療していきましょう)」。こういったかんじで、一旦、距離をあける、レスパイトするとした対応に変わってきているのです。
5つ目は、<ハームリダクション>の概念が浸透してきたことです。ハームは害、リダクションは減少(削減)ですから、「すこしでも害を減らしていこうよ!」というのがハームリダクションの考え方です。
ハームリダクションについてさらに解説します。依存物質で最悪な薬物はヘロインです。ヘロインが蔓延すると、人はバタバタ死んでいくし、治安は悪化するし、注射器の回し打ちでHIVや肝炎が広がります。そこで苦肉の策として注射器を無料で配布したのがスイスです。ヘロイン依存はすぐには治せません。そのため「せめて感染症だけでも減らそう」と考えたわけです。
私はこういった考え方を合理的だと思います。しかし、眉をひそめる人もいるでしょう。日本には“そもそもおじさん”がたくさんいます。「そもそも違法な薬物を使う方が悪い」「そもそも酒を飲む方が悪い」。こういった意見をいうおじさんです。一見、立派なことを言っているように見えますが、生産的な発言とは思えません。
話を元に戻します。元々、ハームリダクションは、以上のような取り組みのことを指していました。しかし、今はもっと広い意味で解釈されています。「少しでも害を減らそう!」というのは、「少しでもいいことをやっていこう!」というのと同義語。そのため、「断酒をする気がなくても、とりあえず外来を続ける」とした関わりもハームリダクションに含まれます。
実際、初診の方の場合、家族から説得されるなどして、しぶしぶ病院に来た人ばかりです。初めは酒をやめる気なんてありません。そういった人に、「そもそも止める気がないんだったら、病院に来てもしょうがない」と伝えることが治療的でしょうか。そんなはずがありません。私なら、まず「困ったこと探し」をします。職場で困っていることがないか、家庭で困っていることはないか。そういったことを探って、治療の接点を見出します。
そこから関係が始まり、時期をみて当院の依存症ミーティングに誘ってみます。当院のミーティングは和やかな会なので、見学した方の大半が、「思っていたのと違った」「これなら参加できそう」とおっしゃります。こういった形でハームリダクションの考え方は現在の依存症臨床に影響を与えているのです。
以上、『これからの依存症対策-その3』では、依存症の勉強をしていく上で、知っておくべき5つのことについて記しました。
次回も依存症の話をします。引き続きご愛読いただければ幸いです。
令和7年8月20日
院長 松本康宏