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2025/08/25

これからの依存症対策-その5

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

 今回は『これからの依存症対策-その5』。前回の話の続きです。

 

 私たちは依存症の問題に取り組む上で、3つの目標を掲げています。①賢くなる(勉強する)②つながる(孤独にならない)③長生きを目標にする、この3つです。

 

 実をいうと、これらの目標を決める際、三つめをどうするかで悩みました。「ハームリダクション」の概念を入れたかったのですが、そのままの文言だと、一般の人には通じません。そこで、「長生きを目標にする」という言葉を選びました。長生きを目標にすると、やれることがたくさん見つかります。そうやって「少しでもいいことをやっていく」のが、ハームリダクションの概念です。

 

 では、<①賢くなる(勉強する)②つながる(孤独にならない)③長生きを目標にする(ハームリダクション)>この3つに共通するキーワードは何でしょう?それは、動機(モチベーション)だと思います。テキストを用いてみんなで勉強していくことも、共通の目標をもってみんなで取り組んでいくことも、できることを少しずつやっていくことも、すべて患者さんの動機(モチベーション)につながります。

 

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 「直面化より動機づけ」。依存症臨床の領域で、最近よく耳にするフレーズです。では直面化とは何かというと、例えば、酒害の説明なんかがそうです。「これくらい飲んでいると肝硬変になりますよ」「若いうちから認知症になる人もいますよ」……。大事な話ではありますが、診察のたびに聞かされていたら、聞いている方はうんざりします。そこで直面化はほどほどにして、「動機づけに力を入れよう!」といわれ始めているのです。

 

 まだ受診にいたっていないケースなら、「薬」も動機づけになるでしょう。「いい薬があるから病院に行ってみない?」とした働きかけは、受診をしぶっている人に効果があるかもしれません。実際、現場ではアカンプロサートという薬がよく用いられます。飲めば必ず断酒ができるといった「魔法の薬」ではありませんが、飲酒欲求を少し抑えてくれます。

 

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 世の中には、「動機づけ」に焦点をあてた面接技法もあります。しかし、残念ながらその技法を簡潔に説明する力が私にはありません。そのため、動機づけの観点からみて、逆に良くないとされる関わり方を例示しておこうと思います。そうすることによって、ある程度、「動機づけ面接」のイメージができるのではないかと思うからです。

 

 ・何、言ってるんですか(否定から入る)・そういうのを依存症っていうんですよ(議論する)・そのうち家族から見放されますよ(脅しをかける)・ともかく止めるように!(命令する)・あなたが言っているのは、まさに「否認」です(ラベリングをする)・断酒会に行くしかありませんね(こちらから解決を与える)

 

 以上のようなやりとりは、「動機づけ」の観点からよくないとされています。なお注意すべきは、患者さんをよくしようと必死になっているときに、むしろこういった会話になりがちだということです。そのため、最初のうちは、「患者さんとの話を膨らませていこうかな」くらいに考えていた方が無難でしょう。

 

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 動機(モチベーション)に関しては、もう一つ知っておくべきことがあります。それは、患者さんの回復には「ステージ」があるということです。

 

 先述したように、初めからモチベーションが高い人はいません。そういったステージの人に、いくら「断酒会」がいいからといってそれを勧めても、その時点で「行ってみよう!」と思う人はいないでしょう。サンドウィッチマンじゃありませんが、「ちょっと何言ってんだか分からない」といったやりとりが予測されます。

 

 最初は、外来をつなげることから始めて、そのうち当院の依存症ミーティングに参加。さらに治療意欲が高まってきたら、断酒会にも行ってみる……。そうした「ステージ」とその時点でのふさわしい関わり方があることを知っておくべきかと思います。

 

 以上、『これからの依存症対策-その5』では、「3つの目標」と「動機づけ」について記しました。次回も依存症の話をします。引き続きご愛読いただければ幸いです。

 

令和7年8月25日

院長 松本康宏

〒010-0063秋田県秋田市牛島西一丁目7-5

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