2025/08/29
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これからの依存症対策-その6
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は『これからの依存症対策-その6』。前回の話の続きです。
昔、『現代のエスプリ』という雑誌がありました。心理系の人がよく読む雑誌でした。そこに、「リストカット症候群」に関する論文を載せたことがあります。20年くらいまえのことです。
念のため話をしておきますと、無名の私に論文掲載の依頼がくるはずがありません。当時の私の上司に依頼があって、その先生から「一緒に書いてみよう」と声をかけてもらったのです。ですから、簡単にいうと、その論文は教えてもらいながら書いたというのが実情です。
なおその論文では、手首自傷の行動化としての意味を<慢性的で潜在的な自己愛の傷つきを回復させるための刹那的行為>と捉え、話を展開しました。それから10年以上経過し、カンツィアンの自己治療仮説を知ったときには、似た考えに驚いた次第です。
しかし、これは考えてみれば当然のことだと思います。引きこもり・家庭内暴力、市販薬依存症、アルコール依存症、慢性的なうつ状態、解離・手首自傷、摂食障害、DV・虐待、こういったものはすべて、表面に現れてきた問題にすぎず、背景をみていくと、そこには“生きづらさ”を認めやすいからです。
最近、私は市販薬依存に関心を持っています。市販薬依存は治療が難しく、精神科医療のなかでも応用編といってよいでしょう。アルコール依存の人は、勿論全員がそうではありませんが、循環気質の人が多いように思います。おおげさにいうと、知り合った人はみんな家族、そういった考えをする人たちです。そのため治療が軌道に乗ってくると当事者たちの間に団結心が生まれてきます。「みんなで断酒を頑張るぞ!」といった雰囲気になってくるのです。しかし、市販薬依存の人はそうはなりません。一対一の関係は築けても、なかなか集団に入って行くことができないのです。治療の難しさもそのあたりにあるように思います。
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精神科の場合、こころを扱うといっても、治療は科学に基づいたものですから、スタンダードなやり方というのがあります。精神病圏なら<早期の診断と適切な精神科治療>、パーソナリティ障害圏なら<マネジメントと現実志向的精神療法>、神経症圏なら<精神療法と補助的薬物療法>、発達障害圏なら<発達障害の特性を考慮に入れた関わり(心理教育・コーチング・環境調整)>、こういったものです。
さきほど、依存症になった人には“生きづらさ”を認めることが多いといった話をしました。しかし、専門家であればそこで思考を止めず、「その生きづらさとは、どんな生きづらさなのか」。そういったことを考えておく必要があるでしょう。
精神病圏の生きづらさなのか、パーソナリティ障害圏の生きづらさなのか、神経症圏の生きづらさなのか、発達障害圏の生きづらさなのか、まずは、そういった観点から押さえておくべきだと思います。なお、そうした診かたは「重複障害」の理解にもつながります。例えば、双極性障害の人はギャンブル依存やアルコール依存を合併しやすいことが知られています。ちなみに躁状態とは一言でいうと“気持ちが大きくなった状態”。それを知っていれば、双極性障害の人がギャンブル依存症を合併しやすいことも容易に想像できるのではないでしょうか。
付け加えると、次のことも知っておいて損はしないと思います。依存症にも色んなタイプがありますが、 “生きづらさ”のせいでニコチン依存になった人はまず見かけません。一方、私の経験だと、市販薬依存の場合、ほぼ全員に“生きづらさ”を認めます。<依存症のタイプによっても生きづらさを認める率が異なる>。その人の病理を知る上で、少しは役立つ事実だと思います。
次回も依存症の話をします。引き続きご愛読いただければ幸いです。
令和7年8月29日
院長 松本康宏