2025/09/01
人と地域を
もっと健康に

これからの依存症対策-その7
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は『これからの依存症対策-その7』。前回の話の続きです。
今、依存症対策が、あちこちで盛り上がっています。その理由として、以下の3つがあげられます。
一つは、 WHO(世界保健機構)がアルコール対策に力を入れ始めたこと。“たばこ”はさんざんやった。次はアルコールだ!というわけです。
二つめはこれまでお話ししてきたように、依存症の捉え方・関わり方が変わってきたこと。実際、太陽政策は手ごたえあり。依存症の捉え方・関わり方が変わってきたことで患者さんだけでなく、治療者も楽になりました。
三つめは「にも包括」が動き始めたこと。これに関しては補足説明が必要でしょう。
「にも包括」とは、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の略。文章にすると、<精神障害者が地域の一員として、安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労)、地域の助け合い、教育が包括的に確保されたシステム>のこと。
元々、地域包括ケアシステムとは高齢者を対象に作られたものです。それが「精神障害者にも」となって、最近だと「誰もが」と対象が広がっています。しかし、これだとどこに力を入れて活動したらいいか分かりません。「誰もが地域で暮らしやすい社会を作っていきましょう」というのは当たり前すぎる話だからです。
では、「にも包括」の目標を絞り込むとどうなるのか。私は以下の2つになると思います。一つは、精神障害者の長期入院を減らす。言い換えると、<精神障害者が入院しなくても、地域で暮らせる社会を作っていきましょう>ということ。もう一つが、<地域に埋もれている「精神的に困っている人」を支援していこう>ということです。
では、地域に埋もれている「精神的に困っている人」とは、どういう人なのか。例をあげると、依存症、発達障がい、引きこもり、ひどく死にたくなっている人、DVの被害者・加害者、虐待の被害者・加害者、そういった人たちが思い浮かびます。こういったこれまであまり医療とは接点がなかった人たちにも、支援の手を差し伸べていこうというのが「にも包括」の目標と考えます。
なお、国は「にも包括」の事業内容として13の項目を掲げています。そのなかで興味を惹かれたのが5番目の項目。<ピアサポートの活用に係る事業>です。「国がこんなことを言っているんだ。これは画期的だな」と思いました。
ピアサポートという言葉は一般にはなじみがないかもしれません。ピアサポートとは、病気や障害を抱えた人が回復し、自分に余裕ができたときに、同じ病気や障害の人を支援することをいいます。これまでも乳がんの領域などで行われてきました。これを精神疾患の領域にも広げていこうとした取り組み。これが5番目の項目です。
では、ピア(当事者)と一番接点があるのはどこか。それは当院のような病院です。そこで私たちは『当事者の声を聴く会』というものを作り、計10回開催しました。私がいうのもなんですが、とてもいい会でした。「ピアの力」を強く感じた次第です。参加してくださった方々も私と同じ思いを抱かれたのではないでしょうか。
以上、『これからの依存症対策-その7』では、昨今、依存症対策が盛り上がってきていることと、その要因の一つである「にも包括」について触れました。次回も依存症の話をします。引き続きご愛読いただければ幸いです。
令和7年9月1日
院長 松本康宏
追記:今月、『続・気晴らしのすすめ』を出版しました。このブログを編纂したものです。現在、Amazonで販売しています。どうか、そちらの方もご愛読、よろしくお願い申し上げます。