2025/10/14
人と地域を
もっと健康に

思い出したい言葉
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
若い頃、症例検討会に好んで参加していました。他病院で行われていた主に精神療法に関する検討会です。そこでは、その患者さんがどんな人なのか、いま治療関係でどんなことが起きているのか、今後どうすればいいのか、そういったことが話し合われていました。
そのうち私は、会に参加するとなぜか過度に緊張するようになりました。「いったい、どうしたのかな?」。自分でも自分の変化が不思議でした。
症例検討会が終わると、しばしば参加者でお酒を飲みに行きます。その際、尊敬する先輩がこんな発言をしました。私は、それを聞いてハッとしました。
「最近の検討会は、参加者がどれだけ自分がいい発言をしたかの競争になっているね」
いうまでもなく症例検討会というのは、「学ぶ」ためにあるものです。それがいつのまにか、参加者の「競争」になっていたのです。発言する度に私が過度に緊張していたのも、そこに原因があったのでしょう。好きなことを発言すればいいのに、「いかに気の利いた発言をするか」。そういったことばかり考えるようになっていたのだと思います。
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先日、風邪をひいたこともあって自宅で読書をしていました。読んでいたのは岸見一郎さんの『「普通」につけるくすり』。岸見さんは『嫌われる勇気』の著者として有名です。また、その本が売れたおかげで「アドラー心理学」が世間に広く知られるようになりました。
アドラーは「普通である勇気」を説いています。特別であろうとする必要はないと。「特別であろうとするから、目立とうとしたり、非行に走ったり、過度に緊張してしまう」と述べているのです。
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純真な気持ちで始めた勉強や仕事も、いつのまにか目的が変わってしまうことがあります。「いい成績を取りたい」「周囲から評価をされたい」……。そういった考えを否定はしませんが、行き過ぎると、先述した私のようにおかしなことになってしまいます。やはりときどき立ち止まって自分を見つめておく必要があるのでしょう。
その際に思い出したい言葉、それがアドラーの「普通である勇気」です。
令和7年10月14日
院長 松本康宏
追記:10月19日『こころの臨床』が行われます。まだ間に合います。ぜひふるってご参加ください。詳細は、当院医療相談室まで。