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2025/10/27

30年後の未来

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

 10月19日、『こころの臨床研究会』が開催されました。主催者側の私がいうのも何ですが、素晴らしい会でした。当事者をはじめ、みんな“いきいき”としていました。私は隔世の感をもって参加者のパフォーマンスを眺めていた次第です。

 

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 この30年で精神科の医療はずいぶん変わりました。幻覚妄想に左右され、激しい興奮状態で入院するような患者さんは激減しています。なおそういった患者さんは治療をするとすごくよくなります。そのため若い頃は、精神科治療の醍醐味のように感じていました。

 

 ではどのように治療をしていたかというと、私の場合、一人で隔離室に入ります。そして、患者さんから少し離れたところに腰掛けます。視線は合わせません。何も語りかけず、<窓>が開くのを待ちました。急性期であれば、いくら幻覚妄想が活発でも一日中その世界に浸っている人はまずいません。そばで患者さんの雰囲気を察知していると「今なら疎通が取れる」。そういった瞬間が訪れます。それが窓の開いた瞬間です。「ご飯食べないと倒れちゃうよ」「薬を飲んだ方が早く良くなるからね」。必要最小限の声掛けをします。それがスッと患者さんの頭に入り込みます……。

 

 今はこういった治療を行う人はいません。安全面の観点から、スタッフが一人で隔離室に入ることはほとんどの病院で禁じられています。そのため、以上のようなやり方は世の中から姿を消しました。正直、少し寂しい気もします。

 

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 最近よく「失われた30年」という言葉を耳にします。しかし、本当にそうでしょうか。日本社会は失ったものもあるけれど、進歩したものもたくさんあるのではないでしょうか。

 

 例えば、以前と比べて、多様な生き方ができるようになっています。また、労働時間が減った分、自由に使える時間が増えました。

 

 精神科でいうと、30年前は窓に鉄格子がある病院がたくさん残っていました。院内は畳部屋が多く、日中も臥床して過ごす人がめずらしくありませんでした。薬は多剤大量処方が基本です。そのため今よりずっと副作用がでていました。治療は独特で独りよがりなものが多かったように思います。それが現在は、科学的エビデンスに基づき、かつ多職種で治療にあたるようになっています。

 

 社会資源の観点からみても、今と30年前とでは雲泥の差があります。デイケアや訪問看護、就労支援を利用するのが当たりまえになりました。そして何より痛感するのは、世の中から精神科に対する抵抗感が減ったことです。それによって多くの人が気軽に精神科を受診するようになりました。その結果、早期介入が可能となり、病気自体、軽症化しています。

 

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 世の中には、昔の仕事のやり方を懐かしく思い出す人がいます。なお、そういった際には、どうしても“失われたもの”に目が行きがちです。先程30年前のやり方に触れた私もそうでした。しかし、懐かしむこと自体、世の中が変化し進歩してきた証拠といえるではないでしょうか。

 

 「失われた30年」というのはあくまで一面的な見方です。上に例をあげたとおり、全体的に見れば、社会は少しずつ進歩しています。だから30年後の未来は、「もっといい世の中になっている」というのが私の持論です。

 

令和7年10月27日

院長 松本康宏

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