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2026/02/27

江戸の心学・令和の心学

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 

 昨年12月、丹羽宇一郎(にわういちろう)さんが亡くなられました。享年86歳、大変残念に思います。

 

 丹羽さんは以前伊藤忠商事の社長を務められていました。また、民主党政権時代には、民間人で初めて駐中国大使を任されます。ただ、駐大使時代の丹羽さんは見ていて気の毒でした。尋常じゃないほどのプレッシャーがのしかかっていたからです。

 

 丹羽さんが駐中国大使をしていた際、尖閣問題が勃発します。当時都知事であった石原慎太郎氏が尖閣諸島を購入すると発言。それを非難した丹羽さんは逆に国民から激しくバッシングを受けます。「中国寄り」「所詮、商人(あきんど)」といった非難でした。しかし、丹羽さんが日本のことを考えていなかったはずがありません。

 

 そもそも本物の商社マンとは次のような気概の持ち主です。「小麦でも石油でも良いものを安く仕入れて、日本人に届けたい」「会社を儲けさせることが、ひいては日本を豊かにする」。そういった愛国心に突き動かされています。丹羽さんも同じです。中国と良好な関係を保つことが日本のためになると考えていました。

 

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 私が丹羽さんのことを知ったのは、書籍を通してです。読んですぐ彼の人柄に惹かれました。丹羽さんの根底には、「仕事が人格を磨く」とした思想があります。

 

 「仕事が人格を磨く」とした考えは、おそらく日本特有のものでしょう。江戸時代、石田梅岩(いしだばいがん)によって説かれました。この心学が教えるところは、「勤勉と倹約」です。ともに大事なことですが、実際、両立させようとすると問題が生じます。勤勉に働いて物を量産し、倹約して物を消費しなければ、物余りが生じて世の中が回らなくなってしまうからです。

 

 そこで生まれたのが、「精魂込めて、きちんとていねいに仕事をする」とした発想です。これであれば物が量産されることはありません。しかも品質が向上します。とはいえ、働き手からは「真面目に仕事をして何かいいことあるの?」とした疑問も出てくるでしょう。その際の答えが、「人格が磨かれる」です。

 

 この思想は明治以降も多くの日本人に受け継がれてきました。丹羽さんもその一人といえるでしょう。

 

 ただ、自分が「仕事が人格を磨く」とした考えに基づいて行動できるかというと、正直に言って無理です。私はそこまで自分に厳しくなることができません。なお今の時代は、「仕事」と「人格」を切り離して考えておいた方が無難な気もします。

 

 なぜなら、「仕事が人格を磨く」とした立場に立つと、仕事をしていない人が自分を責めて“うつ”になってしまったり、仕事ができない人を周囲が追い詰めてしまう危険性があるからです。

 

 では、今の時代、「仕事が人格を磨く」とした思想に代わって、どういった考えが求められているのでしょう。

 

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 精神科をしていると、次のような「特徴」を持つ人が多いことに気付きます。

 

 それは、「好きなモノ・自分にとって大切なモノ」が少ないということです。そういったモノが少ないと、当然、気持ちが満たされず、不調をきたしやすくなります。そのため、気持ちを安定させるには、時間をかけて少しずつ「好きなモノ・大切なモノ」を増やしていくことが大事になってきます。

 

 対象は何でも構いません。野球チームや芸能人でもいいし、音楽や映画でも結構です。自分の周りの人や、自分の郷土、自分が所属している集団といったものなら、なおさら、すばらしいと思います。そして、そういったモノを誰かと共有できれば、喜びはさらに増すでしょう。

 

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 今の時代は、「仕事を通して人格を磨く」というより、好きなモノ・自分にとって大切なモノを増やし、気持ちを豊かにしていく───そういったスタンスが求められているのではないでしょうか。

 

令和8年2月27日

院長 松本康宏

 

 

追記:3月14日『新・当事者の声を聴く会』を開催します。皆さまのご参加をお待ちしています。詳しくはホームページの『おしらせ(2月4日)』をご参照ください。

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