2024/02/21
人と地域を
もっと健康に
自殺予防ーその3
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は「自殺予防―その3」。自殺のリスクである「アルコール問題」について記します。ここでいう「アルコール問題」とはアルコール依存症や多量飲酒のことです。ちなみにアルコール依存症の人は日本に100万人くらい、多量飲酒の人は900万人くらいいるとされています。
世の中には大きなショックを受けて自殺をされる人がいます。しかし、多くは、複数の要素が重なって起きると考えられています。その要素とは、①経済的な問題 ②体の病気 ③離婚 ④うつ ⑤多量飲酒などです。これらは次第に絡み合い、最終的には死を考えるほどの心理的負荷となってしまいます。例えば、失職を機にアルコールの量が増え、うつ状態をきたしたとか、離婚を機にアルコールの量が増えて体の病気になったとか・・・。
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秋田をはじめ、北東北は自殺率の高い地域です。私はその要因の一つとして「多量飲酒」を疑っています。ただしこれを証明したデータはありません。そもそも飲酒量と自殺率の相関を示すのは簡単なことではありません。それは自殺に関する危険因子がたくさん存在するからです。因子を絞り込もうとすれば、おのずと研究は大規模になります。そういったこともあって飲酒量と自殺率の相関を示した研究は乏しいのです。
一方、多量飲酒が自殺率を高める「傍証」はたくさん存在します。多量飲酒が自殺に関する他のリスク(健康障害やうつ)を誘発すること、多量飲酒が依存症につながること、アルコール依存症の人は一般人口と比べて極めて自殺率が高いことなどです。
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アルコール依存症は治療ギャップの大きな疾患です。全体の5%くらいしか専門的な治療を受けていません。しかもさきほど述べたように罹患している人が多く、自殺率も高い疾患です。こうしたことから自殺予防にアルコール依存症の対策が有効なのはまちがいありません。
さらにこんな話も付け足しておこうと思います。これまで政府は自殺対策として「うつ」に力を入れてきました。それは自殺の動機としてうつ病が一番にあがってくるからです。一方、日本だと自殺の動機に占めるアルコール依存症の割合はそれほど高くありません。しかし、本当に診断がつけられているのか疑問です。依存症はコントロール障害。量・時間・場所がコントロールできなくなれば、依存症と考えて問題ありません。そういったことが意外と知られていないのです。依存症のことがもっと世間で認知されるようになると、診断されるケースも増えて、自殺の動機として上位にあがってくる可能性は十分あると思います。
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以上、まとめます。アルコール依存症者の自殺率が高いことは判明しているものの、多量飲酒と自殺率の相関を示した研究は不足しています。しかし、上に記してきたように、多量飲酒が自殺率を上げる可能性は高いと思われます。よって自殺予防には、依存症者にとどまらず、多量飲酒をしている人まで含めた「アルコール対策」が必要と考えます。
令和6年2月21日
院長 松本康宏