2024/09/13
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発達障害ーその1再掲
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
この度、4年前に載せた「発達障害」のブログを再掲載しました。古い内容も含まれていますが、参考にしていただければ幸いです。
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《その一》
【発達障害って何?】
まず、はじめにお伝えしておきたいことが、この「障害」という言葉です。これは英語の「disorder」を訳したものですが、本来、disorderは障害という意味ではありません。しかし、適切な訳語がないため、仕方なくこの言葉を充てているのです。これが誤解を与えているのと同時にイメージを悪くさせています。今回は、やむを得ず、そのままにしておきますが、この点は強調しておきたいと思います。
さて、本題に入ります。発達障害を勉強する上で、まず次のように分けておくと便利です。
- ①知的障害のグループ
- ②自閉症スペクトラムのグループ
- ③ADHD(注意欠如多動性障害)のグループ
- ④虐待のせいで発達不全をきたしているグループ
この4つです。
個人的には④のグループを発達障害に含めるのは反対です。④のグループは大人になれば、パーソナリティ障害の人たち。だから④を発達障害に入れると、発達障害とパーソナリティ障害の区別ができなくなります。それが④を発達障害に含めるべきではないと考える理由です。
以上の4つの中で、②のグループが狭義の発達障害です。①~④をひとまとめにして論じると、次のような混乱をきたしかねません。例えば、発達障害にクスリは効くのか?とした議論をした場合、効くという人もいれば、効かないという人も出てきます。①や②はほとんど効果を示しませんが、③は、かなりの割合で効果を示すからです。ただ、①~④は合併しやすいことも事実。例えば、自閉スペクトラム症がADHDを合併する率は30%くらいと言われています。
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今回は、発達障害の中でも主に②の「自閉スペクトラム症」について話をしていきたいと思います。
自閉スペクトラム症とは比較的新しい呼び名です。以前、アメリカの診断基準では、言葉の発達に遅れがあると自閉性障害、ないとアスペルガー障害というふうに分けていました。しかし今は、自閉スペクトラム症と一括しています。それは、遺伝的な研究や画像研究で両者の違いがはっきりしないこと、かつ支援の仕方も変わらないことが理由です。
ここで「スペクトラム」という言葉についても触れておく必要がありそうです。「スペクトラム」とは、濃淡はあっても、境界のはっきりしない「連続体」のこと。例としてよく出されるのが虹の色です。日本では7色とされていますが、ドイツやフランスでは5色。色と色の間に境目がないため、こういった違いが出てくるわけです。
【発達凸凹】
世の中には自閉症の特徴を持つ人がいる一方、その特性をほとんど持たない人がいます。また、その中間に多少とも自閉症の特徴をもつ「発達凸凹(でこぼこ)」と呼ばれる人がいます。なぜ凸凹かというと能力に「アンバランス」を認めやすいからです。それにしても、発達凸凹というネーミングはイマイチな感が拭えません。もうちょっといいネーミングを見つけて欲しいものです。
さて中間に位置する発達凸凹の人たち。この人たちはその特性を生かして活躍している人もいれば、その特性ゆえに困難をきたしている人もいます。そのため、発達凸凹=発達障害ではなく、発達凸凹の人が不適応を起こした時に初めて、「発達障害」と診断すべきだという人がいます。
【発達障害の症状】
では自閉スペクトラム症の症状にはどのようなものがあるのか、これに関してはまず、Wingの提唱した「3つ組の障害」を押さえておくべきでしょう。具体的には①社会性の障害 ②コミュニケーションの障害 ③想像力の障害です。「ソーシャル・コミュニケーション・イマジネーションの障害」と英語で統一した方が覚えやすいかもしれません。
この3つの障害はそれぞれ独立したものではありません。重なり合うものです。例えば、「相手の気持ちが読み取りにくい」という障害は、イマジネーションの障害ですが、これがあると社会性の障害やコミュニケーションの障害を引き起こします。
自閉スペクトラム症は一言でいうと「社会性の障害」といわれます。しかし、根本的な病理はイマジネーションの障害ではないでしょうか。なぜなら、上に示したように、社会性の障害やコミュニケーションの障害もイマジネーションの障害からきていることが多いためです。
話が脱線しますが、統合失調症も似ています。統合失調症は一言でいうと思考障害の病とされています。しかし、思考障害の一つである妄想も「自我障害」に影響を受けています。自我障害というのは自分と外界の境界があいまいになること。その自我障害の影響を受けて、「盗聴されている」「サトラレている」「電波をかけられる」とした妄想が起きてくるわけです。
さて、発達障害に話を戻します。先程述べた「イマジネーションの障害」について、もう少しみていきましょう。よく、自閉スペクトラム症の子どもは幼少期に「ごっこ遊び」をしない、あるいは遅れて「ごっこ遊び」が始まるといわれます。例えば、土を固めた物をごはんに見立てたり、母親の役割をまねたりするにはイマジネーションが必要だからです。
しかし、イマジネーションといっても、色んなものがあります。相手の気持ちを読み取るのもイマジネーションであれば、頭の中に映像が浮かぶのもイマジネーション。実際、世の中には、頭の中に映像が浮かびやすい人がいます。『スターウォーズ』を作ったジョージ・ルーカスもその一人。一方、彼は、極めて人づきあいが苦手とのこと。そう考えると『スターウォーズ』は、発達凸凹の人が作った「豊かな世界」なのかもしれません。
さてここまで3つ組の障害をみてきました。ただ、自閉症スペクトラムの症状はこれだけではありません。「こだわり」や「感覚過敏」も重要な症状(特徴)です。仮に私が、重要な症状を3つ選びなさいといわれれば、①人の気持ちを読み取りにくいこと ②こだわり ③感覚過敏を選びます(注:感覚過敏をこだわりに含める人もいます)。
では、人の気持ちを読み取りにくいのはどうしてか?それに関しては、実は、今もよく分かっていません。以前、とある講演を聞いていて、「なるほど」と思ったのが、次のような話です。
定型発達の子どもと自閉スペクトラム症の子どもに映画のシーンを観てもらいます。それは会話のシーン。すると、定型発達の子どもたちは会話をしている人の顔や口に視線を向けます。しかし、自閉スペクトラム症の子どもたちは、会話をしている人の顔や口ではなく、自分が気になったところ(例えば、服やボタン等)に視線を集中させる傾向があります。すると、当然、表情が読み取りにくくなります。「そういった特徴も、人の気持ちを読み取りにくくさせている一因ではないか」という内容でした。
一方、その特徴は、「よくそんなことに気が付いたね」とか、「よくそんなことを覚えているね」とした現象にもつながります。また、自閉スペクトラム症の人の中にはカメラアイの持ち主(写真を撮るように記憶できる人)がいることも、以上とひとつながりのような気がしています(続く)。
紙幅の都合で、次回のブログ(9月18日)に続きを載せます。
令和2年6月19日(令和6年9月13日再掲)
院長 松本康宏